「私、妊娠したのよ」
あなたの澄んだ目が
みるみる絶望の色に染っていくことに
私は安堵していた
あなたの十字架は私が降ろす、
例えその背骨ごと引き剥がすことになっても
そう決めたのは
この腹に新たな生命が宿ったと知った時だった
私たちは良い親友だった、
いや、正確に言うならお互いに良い親友を演じていた
あなたが私を見つめる瞳は
出会った当初から情熱を帯びていて
私たちは、
どちらかが2分の1の確率で今とは違う身体をもって
生まれていたら恋人同士になれたのかもしれない
それがどれほど意味の無い夢想であるかはわかっている
あなたは他ならぬこの私に恋をし、
そして私も唯一のあなたに恋をしていたから
でも私たちはお互いに若くて、
どうしようも無いくらい臆病だった
私への気持ちに蓋をして苦しんでいる
あなたを見ているのは辛くて、
臆病な私は、
世間一般の「普通」に奔放に身を委ね、
自分の感情を見て見ぬふりをすることに徹した
しかし、もし20歳という区切りで、
あなたが私たちの関係性の変化を望むのなら、
私はそれを全て受け入れるつもりだった
あなたの苦しみも幸せも、
過去も未来も、
非難も恐怖も、
愛しいあなたの手を取って
受け入れようと決めていたその時、
私に天罰が下った
それは、
罰と言うにはあまりに無条件に幸福の形をしていた
この子の父親になる人は
驚きと喜びで飛び跳ねながら
指輪を買いに走ったけれど、
私はその背中を見つめながら
あなたのことを考えていた
あなたの十字架をいかに残酷に引き剥がして、
私への思いを断ち切らせるか、ということを
未練すら残らないように、
冷徹に、無慈悲に
今、あなたを絶望に染めているのは一体なんだろう
20歳という若さで母になる私への哀れみか
想い人の奔放さが招いた結果への同情か
十字架を背骨ごと引き剥がされた痛みか
耐え難い沈黙の間、
私はあなたの瞳を見ながら
私自身を見つめていた
幸福そうな顔をした私がそこにいる
これで良い、
あなたの十字架は確かに地に落ちた
その傷が癒えたらどうかまた歩き出して、
今度こそ幸福を見つけてね
私のたった1人の愛しい人
寒さが身に染みる、
私は目を閉じてあなたを見つめていた
1/11/2023, 1:35:01 PM