退役軍人の朝は早い。
始まりはいつもこのポンコツコーヒーマシンから出る香り豊かなコーヒーだった。
並々注がれてしまってはミルクも砂糖も入れられない。
「全く、いい加減覚えてくれ」
コツン、とコーヒーマシンを指で弾くとそのブラックコーヒーを一口啜る。
顔を歪ませながらティーカップを窓辺におかれたテーブルへ運ぶと、ミルクを注いでかき混ぜる。
休日でもあるまい、妙に静かな外を眺めながら少し甘めなコーヒーをいただく。
ほっと一息ついたところで、彼の携帯がけたたましく震えた。
「もしも-」
「おいジャック!昨日から電話かけてるんだぞ!一体なんででないんだよ!!大変なんだ!助けてくれ!」
「お、おいどうしたんだリック」
「隣町のサンデロにあるアンディのバーにきてくれ!!すぐ!」
いつもメールしかよこさないはずのリックが、緊急事態と言わんばかりに電話をしてきたのだ。
彼は前の同僚であり友人である。
コーヒーを飲んだばかりなのに、そう思いつつもジャックは隣町まで車を走らせた。
彼はこの日を境に自宅へ戻れることは無くなった。
感染した人間達を相手に奮闘することになるとは、今はまだ知らない。
[コーヒーマシンの憂鬱]
10/21/2024, 9:39:26 AM