【題:バレンタイン】
今日は2月14日、バレンタインデー。
といっても、気になる人もチョコを贈りあうような友人もいない社会人にとっては、ただむなしいだけだ。
平日であれば仕事で気が紛れるというのに、休日で用事もないとなると、家で一人だ。
チョコを贈り合う男女や友達の集団を想像して、なんだか居たたまれなくなるだけである。
ため息を一つつき、寝返りをして、そこらにあるクッションを抱き締める。
これでも一応、10年前――高校生だった時には友達とチョコレート味の自作クッキーを贈り合ったり、本命チョコを渡そうとする友人をはやし立てたりした。
まあもう、高校時代の友人とは、ここ3年連絡も取っていないのだが……
ピンポーン。音ひとつしなかったこの部屋に、突然チャイムが鳴り響く。
誰だろう。こんな日に訪ねてくる人など、いるはずがないのに。
やや重い足取りで玄関まで行き、ドアを開けた。
「お届け物でーす。ここにサインをお願いします」
のんびりとした声色と共に、ボールペンが差し出される。
ここ一ヶ月で、なにか頼んだ記憶はないのだけれどもな。
「あの――部屋間違ってませんか?」
「え? えっと、◯◯◯号室の✕✕さんですよね?」
それはたしかに私の部屋番号と名字であった。にしてもどういうことだろうか。
ああ、実家から何か送られてきたとかだろうか。
「ええ、そうです。すみません、サインさせていただきますね」
自分の名前を紙に書き、それと段ボール箱を交換する。
「はい、ありがとうございます。それでは」
配達員はそう言い残し、エレベーターの方へ向かっていった。
部屋に戻り、リビングの机に段ボール箱を置き、封を開ける。
中には――有名なブランドの生チョコが、おしゃれに飾られて入っていた。
ああ、そういえば。
2週間前、酔った勢いで、バレンタインに到着するように生チョコをオンラインで購入したんだっけ。
2週間後の自分へのプレゼントだ、って。
完全に失念していた。
とりあえず、買ってしまったからには食べようか。
かわいらしい包装を開けて、チョコと対面する。
ああ、外ではチョコを贈りあう人々が居る中、私は一人で何をやっているのだろうか。呆れてしまう。
生チョコにフォークを浅く刺し、口元まで運んで、口にぽいっとほうりこむ。
思っていたより甘い風味が、口の中でなめらかに広がった。
――案外、悪くないかも。
2/14/2026, 11:53:50 AM