あじさい
「土によって変わるんだって」
「……何が?」
「もー、ちゃんと話聞いてよー」
放課後の教室で、居残りをしながらその声をBGM代わりにしていたら、少しだけ怒ったような声で返された。
「ごめん、ごめん。で、何の話だっけ?」
「はぁ。だから、あじさいの話」
「あじさい?」
「そう。花の色がさ、育つ土の酸度によって変わるんだって」
ふーん、と相づちを打てば、目の前に座る彼女は外を眺めながら続ける。
「なんかさ、羨ましいなって思って」
「なんで?」
「だってさ、その酸度ならこの色って決まってるんだよ。何になるか決まってた方がいいじゃん」
「……でも、その色にしかなれないんだよ? たとえ、別の色になりたくても、そういう運命だって受け入れなきゃいけない。だったら、私はあじさいじゃなくて、よかったなって思う」
視線を机の上に向けると、そこにはまだ真っ白なままの進路希望調査と書かれた紙があった。
決まりきった道を歩くのはきっと難しくはないだろうけど、退屈で、それでいて何気に苦労するのだろう。
だったら、自分で決めた道を自分なりに進んでいく方が、きっと何倍もいい。置かれた場所で咲くよりも、好きな場所で、好きな色で、好きなように咲けたら、いい。
6/13/2023, 2:04:16 PM