池上さゆり

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 星というのはもう現代では見ることのできない幻のもの思っていた。小学生のときに習った季節ごとの夜空の写真も幻想だと思っていた。科学上証明はできても、人間の目には見えない。それが星だと思っていた。
 実際に夜、外に出てみても星の一つも見ることはできなかった。夜空に見えるのは月だけで、先生が言うには街明かりが星の存在を消しているらしい。
 ある時、父の仕事の関係で田舎に引っ越しをすることになった。いわば左遷されたわけだが、父は生まれ育った故郷に戻れることが嬉しいらしく、喜んでいた。
 引っ越し作業に疲れて、僕は一人で外に出た。なんとなく近場になにがあるのかを把握したかった。だが、さすが田舎というべきか街明かりというものがほとんどない。それぞれの家の窓が光っているぐらいで、お店や看板の強烈な灯りというものがなにもない。すぐ近くに山も見える。山がこんな近くにあるだなんて違和感だなと思った僕はなんとなくじっと見つめていた。
 すると、その視界の先で見慣れない白い点がたくさん見えた気がした。視線をそのまま上空へと上げると、空に星が溢れる景色に目を奪われた。一瞬、気持ち悪いと思ってしまったものの、ちゃんと見てみると星は一色じゃなかった。何色もあって、学校で習った星座も簡単に見つけられそうな気がした。興味がなくてちゃんと授業を聞いていなかったことを後悔するぐらいには美しかった。
 僕はすぐに家に帰って両親に報告した。星が見えると。それを聞いた父は笑っていた。
「そうだろう。ここは日本の中でも星が綺麗に見えると有名なところなんだ」
 自慢げに笑う父と母を連れて再び外に出る。そこでいろんな星座を教えてもらった。
 きっと僕はこの夜を忘れない。

3/16/2024, 8:01:19 AM