いろ

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【命が燃え尽きるまで】

 物心ついた時から、命の灯とも呼ぶべきものが見えていた。街の自警団のお兄さんの灯は、キラキラと輝く鮮やかな赤色。近所の魔導士のおばあちゃんの灯は、暖炉のような穏やかで優しい橙色。そうして貧民街の片隅で、ひどく咳き込みながら苦しげな息を継いでいる人の灯は、今にも枯れてしまいそうに弱々しく揺らいでいた。
 どうして私の目に命の在り方が見えるのかはわからない。こんな能力要らなかったのにと嘆いたこともあったけれど、魔導士のおばあちゃんはそんな私の頭を優しく撫でた。
「良いかい、生まれ持った才能というのは神様からの贈り物だ。きっといつか君の人生に、その能力が必要な日が訪れる。だから君はその目を大切に生きなさい」
 そう微笑んだおばあちゃんの灯は翌日、蝋燭の火がぷつりと途切れるようにかき消えた。
 ねえ、おばあちゃん。私はずっと、貴女の言うような日は来ないって心のどこかで思っていたよ。でも、違ったね。正しかったのはやっぱり貴女だった。

 パチパチと音を立てて、命の灯が燃えている。自身の魂をすり潰す禁断の魔術を行使する君の命が、美しく燃え盛る。
 村を壊滅させた大厄災に復讐したいのだと、仄暗い瞳で告げた魔剣士。君の姿を一目見た瞬間に理解した。私のこの能力は、大厄災を退けた英雄として向こう百年謳われるであろうこの人の生きた証を、彼の本当の苦悩と誇り高き生き様とを、語り継ぐためにあるのだと。
 君の剣が目の前の魔物を両断する。もう魔術は解いてはずなのに、そんなのお構いなしに荒々しく燃え続ける君の灯を宥めるように、手元のリュートを奏でた。ほんの少しでも君の苦痛を減らすことができるように。君の命が僅かでも長く保つように。
 ……君の命が燃え尽きるまで、私は君の隣に立ち続けよう。その美しく儚い命の灯の在り方を、心より慈しみながら。

9/14/2023, 10:05:22 PM