かたいなか

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心の迷路と言われても、特に迷路らしい迷路に踏み込んだ経験の無い気がする物書きです。
だいたい少し悩んで、欲望の方に動くのです。
最終的にどうなるかは置いときます。
ということで「心の迷路」のおはなしをひとつ。

最近最近の都内某所、某安めのアパートに、
後輩もとい高葉井なる女性がぼっちで住んでおり、
その日は諸事情で、まさかのドラゴンが同室。
このドラゴンの人間形態が、高葉井もプレイしているゲームのキャラであり、高葉井の推しでした。

非現実的ですが気にしてはいけません。
そういう物語なのです。 しゃーない。
ところでこのドラゴンは、仕事で使っている名前をルリビタキと言いまして、
「ここ」とは別の世界の職場の、法務部執行課実動班、特殊即応部門の部長さんでした。

で、そのルリビタキ部長さんが、なぜ高葉井の部屋に居て、小さく丸くなっているかといいますと、
『何も聞くな』
どうやら経緯を説明するのが難しいようです。
何かのハプニングに巻き込まれたようです。

「ルー部長、その、『何かのハプニング』って」
『なんでもない。本当に、なんでもない』
「あの、私の先輩から、ルー部長の部下さんのツー様を部屋で保護してるってメッセが来てて」
『なん でも ない』

くるる、くくるるる。
強大なチカラを持ち、雄々しい体と翼が双方美しいルリビタキ・ドラゴンですが、
完全に首を引っ込めて、尻尾を隠しています。
どうやら高葉井の先輩とルリビタキの部下を、
ドチャクソに、一時的に、避けているようです。

「なにか小言でも言われてるんですか。
タバコ吸うなとか。他にも何かとか」
『なんでもない。何も、言われていない』
「先輩から、ツー様が部長に謝りたいってメッセ」
『なんでもないと言っている』

「先輩、ルー部長の好きなお茶漬け作って待ってるって言ってますよ」
『食わん。その手には乗らん』
「何があったか先輩に聞いていいですかルー部長」
『ダメだ。聞くな。やめろ』

ギャッ!ぐるるっ、ぎゃおう。
何があったかルリビタキ・ドラゴン、高葉井のスマホがチリンチリンと、メッセージ到着の呼び鈴みたいな音を響かせるたび、
鈴の音に対して、小さく、少しだけ威嚇します。
どうやら鈴の音に、因縁があるようですが、
高葉井は何も、知りません。

「ルー部長?」
『いやだ。俺は、今日は、ツバメにも藤森にも会わない。俺は、ここから動かない』
「るーぶちょう」
『闇堕ちの呼び鈴の効果は、ちょっとやそっとじゃ抜けない。絶対にまだ残っている。いやだ』

「闇堕ち?」
『なん でも ない』

どうしよう。
推しのルリビタキが相変わらず、鈴の音の着信音に威嚇しているのを見つめて、高葉井が思います。
どうしよう、どうしよう。
色々高葉井の先輩から聞いても良いし、
このまま推しを先輩から守り通しても良いのです。
ああ、どうしよう。

高葉井は心の迷路に入り込んで、迷い倒して、
だけど推しは尊いので、推しに食べ物を貢ぎます。

「ロールキャベツ食べませんか」
『ろーるきゃべつ。
食べても藤森のところへは行かない』
「行かなくても良いです」
『俺は屈しない』
「ホントに何があったんですかルー部長……」

鈴の音に威嚇する推し。
推しに会いたがる推しの部下。
推しの部下と一緒に居る先輩。
高葉井は、心の迷路の攻略法が、
結局分からなくて、でも推しが尊くて、ずっとずっと推しにくっついておりました。

「闇堕ちの呼び鈴」が何なのか、
ルリビタキに何が起きていたのか、
判明するかどうかは、今後のお題次第。 おしまい。

11/13/2025, 9:59:17 AM