池上さゆり

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 大地に寝転び雲が流れる…目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?

 それは遠い遠い国のお姫様のお話。
 小さい頃から身体が弱くて病気ばかりしていたお姫様は外で遊びたくても遊ぶことはできませんでした。お兄様たちが外で走り回っているところを窓から眺めているだけの日々にお姫様は毎日悲しくなっていました。
 そんなお姫様の唯一の楽しみは本を読むことでした。本を読むと、まるでその世界に招かれているような気がして楽しかったのです。だけど、ベッドから動けないお姫様は自分で本を選ぶことができません。いつも本を持ってくるのは、生まれた時からお世話してくれているお医者さんでした。
 ある日、お医者さんが持ってきたのは誰かが手作りしたような小さな絵本でした。
 開けてみると、そこに描いてあるのはお姫様は住んでいるお城です。その窓にはお姫様と同じようにベッドで寝ている女の子がいました。女の子は毎日、お花畑で寝てみたい。流れる雲が見てみたいと願い続けていました。ある日、特別な薬を飲んだ女の子は誰よりも元気になって、外を走ることができるようになりました。初めて寝転がったお花畑の上はいい香りが漂っていました。流れる雲を見ながら、夜を待ちました。初めてみる夜空は今まで見てきたどんな宝石よりも綺麗でした。
 お姫様はパタリとその本を閉じて、涙を流しました。どうして私の身体は弱いままで、この女の子は元気になれたのだろう。物語は嘘の塊です。それをわかっていても、お姫様は比べることをやめられませんでした。
 その日の夜、お姫様はみんなが寝ている時間に外へ出ました。少し歩くだけで、息切れがして、足も痛いのに、我慢しました。
 いつも、お兄様たちが走り回っている庭に、あの本のように寝転がってみました。すると、視界いっぱいにキラキラと輝く夜空が広がっていました。それはやっぱり、あの女の子が言っていた通りどんな宝石よりも綺麗な景色だったのです。
 次の日、自分の部屋まで戻れなかったお姫様は、お父様とお母様に見つかってしまい、たくさん怒られてしまいました。
 それでも、お姫様はいつか元気になれることを信じるようになりました。大嫌いだったお薬も今日は頑張って飲むことができました。

 あなたのお話は、どんなお話?

5/4/2023, 10:44:36 AM