*紅茶の香り*
ポゥと灯る豆電球を見つめながら想いにふける。
あの時、何故帰らなかったのか。
帰るのが怖かった。あのまま帰ってたら本当の貴方を見ずに済んだのに。
ロッカーから取り出した制服を見た。貴方が居た。
そこで目を伏せ踵を返していたら。
でも、袖に通す手、スカートに伸びる足…それは貴方のもので、最後にウィッグを念入りに被る貴方。
物凄く可愛かった…。
それからそのロッカーがある豆電球のプレハブに何度か通った。勿論、貴方にバレないように、そっと。
それが実は、バレていて、初めから貴方は『見せていた』と知ったのは…
私は今、渋い液体を飲まされながら後悔している。
「こんなはずじゃ!」
つい叫んだ私は顔に髭を書かれて貴方に男装させられている。
そして貴方が入れた渋い紅茶。
貴方は料理が下手なのね。
香りは良いのに黒とも言える紅茶。
「眩暈がするわ。嬉しすぎる!こうやって夫婦逆転で過ごすのが夢だったのよ!!」
貴方が言う。
「眩暈がするのはこちらの方よ…。」
何故か私も嬉しくて楽しいのが信じられないのだから。
本当の貴方が、私より可愛いのにね。楽しいの。私の容姿に後悔する日が来るなんてね。そこは残念すぎよ。悔しいわ。
紅茶の香りは増して鍋に煮出すその黒水を飲むのは、私なのかしらね…。
鏡に映る紅茶を飲む男と女
見られてました!!
世の中誰が見てるか分からないものです。お気をつけて。
10/27/2023, 1:38:05 PM