たやは

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時を告げる

時は誰にても平等に訪れる。赤ちゃんでも老人であっても変わらずに時を刻む。
時をを告げる鐘の音は、この世界とあの世界を隔てる境界線。境界線を越えてしまえばそこは魑魅魍魎の住むあの世界。平等な時を刻めない世界。

魑魅魍魎。得体の知れない化け物。 

それ見てみたい。

この世界は退屈でつまらない物で溢れている。でもあの世界は魑魅魍魎が闊歩する世界。どんなところだろう。
時を告げる鐘の音は丘の上の時計台から聞こえる。まずは時計台を目指してみよう。

丘を登ると青い三角屋根の時計台が見えて来る。螺旋階段が外側に付いていて、外から階段で時計台の振り子のところまで上がって行ける。鐘の音は毎日は鳴らないし、決まった時間にも鳴らない。満月の夜、月がちょうど時計台の屋根に差し掛かる時に鳴る。この時計台は針が無ので時間では鳴らない。

今日は満月。

月が昇り、時計台のところまで来るとあたりは暗闇に包まれていた。不意に時計台の振り子が動きだす。

カラーン。カラーン。

時を告げる鐘の音が響き始める。
いいよだ。
懐中電灯を手に時計台のテラスから街を見下ろすと月の光が時計台の三角屋根の頂点にあたり、街に向かって月光が延び境界線となっていた。月光の右側がこの世界で左側があの世界。今、私は2つの世界の境目にいる。

あの世界。どんなとろこだろう。好奇心が抑えられずに魑魅魍魎がいる左側の世界へ自然と体が動き、時計台のテラスから身を乗り出していた。その時、左側から何が私にが向かって飛んてきた。

グフゥ。

私の胸にボーガンの矢が刺さっている。

「やれやれ。国家の秘密をあなたのような小娘に知られる訳にはいかないのでね。」
国防軍の制服を着た男がボーガンを右手に持ち時計台の螺旋階段を上がってきた。

「魑魅魍魎がいると分かっていてどうして覗き見なんて真似するするのか。理解に苦しむわね」
男と一緒に歩いてくる若い女も制服組だ。

国家は国防のための化学兵器を時計台の西側の地で作っていた。国民には魑魅魍魎が住むところだと噂を流し、そこに近づけないように操作していたのだ。

「時々困った人がいるものです。知りすぎることは危険を伴うなんて古臭い言葉ですが、迷信は侮れませんよ。全く。後始末する身にもなってもらわないと本当に困ったものです。」

男が続ける。

「満月の夜は霧が晴れて街の全貌が見えてしまう。化学兵器工場の煙も何もかも。」

時計台から見える街の姿がいつも同じとは限らない。そして、魑魅魍魎もあの世界だけにいるものではなく、私たちの住むこの世界にも存在している。

この世界も魑魅魍魎が跳梁跋扈している。

9/7/2024, 6:06:21 AM