「うーん、どうしよう」
僕は目の前に数枚の服を並べて唸っていた。
目の前には夏服と冬服、数枚ずつ……
何を着て外出しようか迷っているのだけど、どうにも決意しかねていた。
もう冬も近いというのに、まだまだ暑い日が続く。
天気予報を見る限り、今日も暖かくなるらしい
服を着込んで汗をかくことは避けたい。
かといって段々寒くなっているのも事実。
夏服では、ふとした瞬間寒い事がある。
寒空の下、凍えるのは嫌だ。
畜生、極端な気温だったら迷うことは無いのに……
なんでこんな中途半端な気温なんだ。
衣替えをすべきか、せざるべきか、それが問題だ。
「うーん、どうしよう……
決められないよ!」
「うふふ。
お困りかい」
「そ、その声は!」
僕は声に驚いて、部屋の入り口を見る。
そこに立っていたのは、衣替えの強い味方『コロモガえもん』だった。
「猫じゃない、タヌキ型ロボット!」
「そんなこと誰も言ってないよ」
唐突にコロモガえもんがキレた。
彼は時々不思議なことを言う。
けれど興味は無いので追求しない。
今大事なのは、衣替えの事だ。
「『衣替えをすべきか、せざるべきか、それが問題だ』。
君はそう言いたいんだろう、ノビタ君?」
「話が早いね、コロモガえもん。
でも僕の名前は、ノビオだよ」
コロモガえもんは、主人の名前さえ間違えるポンコツロボットだ。
けれど衣替えに関しては、シャーロック・ホームズばりの推理力を披露してくれる。
本当にダメダメだけど、衣替えの事だけは頼ることが出来る。
「コロモガえもん、どうしたらいいと思う?
夏服、冬服どっちを着たらいいかな?」
「それなら簡単だよ、ノビエ君」
「本当かい、コロモガえもん!?
あと、僕はノビオね」
「秋服を着ればいいのさ」
「『秋服』だって!?」
体に電流が走る。
暑くもなく寒くもない秋には、秋服を着ればいい。
僕じゃ出なかった発想だ。
コロモガえもんが来てくれて良かった。
「ありががとう、コロモガえもん。
僕、秋服を着るよ!」
「どういたしまして」
「あっ、でも秋服がないや
どうしよう……」
「無いなら買ってくればいいよ」
「でもさ、服を買いに行く服がないんだ」
僕は、目の前にある夏服と冬服を眺める。
外に出るには秋服を着ていけばいい。
けれど秋服を持ってないから、買いに行かないといけない。
買いに行くには外に出る必要がある。
外に出るには秋服を着ていけばいい。
頭の中の議論が堂々巡り。
僕の悩みは、フリダシに戻った――
――かに思われた。
「なんだい、そんなことで悩んでいるのかい?」
「コロモガえもん……?」
「僕が持っている秋服を貸してあげるよ。
ちょっと待ってて」
そう言うとコロモガえもんは、お腹の袋からとある服を取り出した。
「はい、これ。
大事に着てね」
コロモガえもんが出した服、それは輝いていた。
その服は、背中に金の竜が刺繍された、ギンギラギンな服だった。
「待ってよ、コロモガえもん!
こんな派手な服着ていけないよ」
「大丈夫、それが今秋のトレンド服。
皆着ているから目立たないし、むしろ地味なくらいさ」
「でも……」
「僕を信じて、ノビオ君……」
「コロモガえもん……」
コロモガえもんがまっすぐ僕を見る。
彼が嘘をついていたり、揶揄っている様子はない。
なら――
「分かったよ。
僕、これを着て秋服を買ってくるよ!」
「がんばって!」
僕はコロモガえもんからギンギラギンな秋服を受け取り、着替えて外に出る。
いざ行かん、アパレルショップへ。
秋服が僕を待っている。
しかし僕は忘れていた。
コロモガえもんは、衣替え以外のことに関してはポンコツだったことを。
この後、警察から職務質問を受けることになることを、この時の僕はまだ知らない。
10/23/2024, 1:36:50 PM