『些細なことでも』2023.09.03
「味付け変えた?」
彼はそう言って、首を傾げる。
まさか、そんなはずはない。いつも通りだ、と伝えると彼はまた渋い顔をする。
「いつもと味が違う気がする」
もう一口食べて、やっぱり違うと首を縦に振った。
「なんか違うんだ」
そう言いながらも、食べ進めてくれているからまずくはないのだろう。当然だ、この俺が作ったんだかはまずいはずがない。
しかし、味が違うという言葉は気になる。
俺も食べてみる。すると、本当に微かに味が違うような気がした。
「ほんとだ」
何が違うのだろう。舌の上で探ると、普段の料理より塩味が強いことが分かった。
「よく気がついたね」
そう褒めると、彼はうんと頷く。
「だって、いつも食べてるからわかる。もしかして、今日疲れてる? 暑かったもんね」
たしかに、今日は暑かった。それが料理の味に出てしまったのだろう。感じた塩味はごく微量。普通の人ならまず気が付かない。
だが、それを彼は気付いた。
そして、俺があまり本調子でないことも、あっさりと見抜いた。
劇作家ゆえの観察眼か、それとも長く俺といるからなのか。
どちらにせよ、些細なことでも気づく彼の目は、大したものだと思った。
9/3/2023, 11:39:01 AM