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「私とあなたじゃ住む世界が違う 第四十八話」

志那の部屋は、築年数はそんなに経ってなくても、壁は傷やシミだらけで、キッチンは水道の蛇口をひねっても、すぐには水が出て来ません。お風呂はカビだらけで、トイレは水が流れにくい状態です。全体的に傷だらけの部屋です。
「どうやって住めって言うのよー!まるで、ゴミの無いゴミ屋敷じゃーん!」
床は当然の如く、ホコリとシミで汚い状態で、土足で歩くしかありませんでした。
「チクショー!あのババァに文句言って、
修繕費請求してやる!」

志那は、寝室に行きました。
「こんな所で寝ろって言うの?オマケに壁に人みたいな大きなシミがあるし、幽霊とか出ないでしょうね…?!」
志那は、壁にあるシミの方をじーっと見ていました。すると、ピエロみたいな人魂の幽霊がヌーっとシミから出て来ました。
「うらめしや〜…あなた、誰ですか?」
「ゆ、幽霊が住んでるの…?!」
「あ、大声はあげないで下さいね。怪しい者ではありませんから…」
幽霊は、すぐさま薄いベージュの肌、緑色の目、金髪のショートヘア、細身寄りの中肉中背で紫のパーカーを着た礼儀正しい道化師の人間の姿に戻りました。
「私、ピエロと言います。この部屋、女の子が住む事になったんですね。どうしよう…」
「ピエロ…君?ちゃん?」
「普通にピエロで良いですよ。私、体は男ですが、心は女です」
「そ、そうなんだ…この部屋に先客が居るってあのバ…」
「この部屋、あと二人住人が居るんです。紹介しますね」
ピエロは、志那を連れてキッチンへ移動しました。
「確か、ここに居るはずです。おーい、住人さんが来ましたよ!」
ピエロが呼んでも、返事がありませんでした。
「…?キッチンに隠れてるの?」
志那は、キッチンを探し始めました。志那がアイランドキッチンの扉を開けると、水色の猫が飛び出しました。
「ニャー」
「この部屋、猫が住んでるの?」
「彼も仲間です。キトン、人間に戻って下さいね」
キトンは、ピエロに言われると薄いベージュの肌、くりくりした黒の猫目、水色の寝癖ヘアー、標準体型で小柄の水色のパーカーを着たフワフワした猫耳少年の人間の姿に戻りました。
「初めまして、キトンだよ。君の名前は?」
「斎藤志那です…この部屋の住人って、みんな何かに変身してるの?」
「そうだよ」
「この部屋の住人はあと一人居ますので…もうすぐ帰って来るはずです」
ピエロはそう言うと窓を開けて、遠くの方で飛んでいる一羽の黄色いカモメに向かって叫びました。
「ガバードー!部屋の持ち主さんが来ましたよー!」
「ピエロかー?すぐ行くぞー!」
ガバードは、志那の部屋に向かって勢い良く飛んで来ました。
「へー、この女の子が部屋の住人か。あ、俺はガバードって言うんだ」
ガバードは、ベージュの肌、焦げ茶の目、黄色いメッシュが入った黒髪のショートヘア、やや筋肉質で高身長、黄色いパーカーを着た貫禄のある大人っぽい少年の人間の姿に戻りました。
「コレで全員だね」
「全員そろいましたね」
ピエロは、少し悲しげな顔をしました。
「…?」
志那はピエロの方を見て、何かあったんだなと思いました。

「僕達、この部屋を基地にしてるんだ」
「基地?拠点みたいな?」
「まぁ、そんな所だ。旅するから基地は変わるけどな」
「つまり、フロンティアウォーカーみたいな旅人って事?」
「そだよ。仲間が減って心細いけど、世界各地転々としてる」
「あ…カインド達も仲間一人が回帰光玉の犠牲になったんだよね…回帰光玉ってそんなに流通してる武器なの?」
「銃程ではありません。フロンティアウォーカーも回帰光玉の犠牲になってたんですね…」
「ピエロ達も仲間を失ってたんだね…」
志那は、悲しげな表情をしました。
「あ、そうそう!あの管理人、住人が居る部屋の鍵渡しやがって…まったく、文句言ってやる!」
「志那、管理人は気を付けた方が良い。呪いが掛かってるぞ」
「呪い?あ、極地の呪いってやつ?」
「うん。正確には、極地の呪いを受けた誰かの呪いだけど」
「志那、管理人には気をつけて下さい。あと、私達は借り暮らしの様な物です。」
「…あ、内緒で住んでるんだ」

「このマンションに来てから何だか心細かったけど、ピエロとキトンとガバードに会えて良かった!心強い仲間が出来た気分!」
志那は、笑顔になりました。
「志那の仲間の正気を取り戻さないと」
「…え?みんな、変になってるの?」
「多分、豪華な内装の部屋の住人は、管理人の術に掛かり始めてるな」

11/9/2022, 10:16:45 AM