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ここに辿り着くやつは誰もがみんな何かを抱えてる。死に場所を探してるやつもいれば、必死に生きようとしてるやつもいる。あんたがどういう経緯でここに来たのかは、俺には関係ない。興味もない。

そう言うと男は、気だるそうに紫煙をくゆらせた。
天井付近まで立ち上って消えてゆく煙をぼんやりと追いかける。追いかけながら、問うた。
「あなたはなぜここに?」
「……」
「他人に興味を抱かないのは、自分に興味を持たれるのを避けるためではないのですか?」
煙の消えた一点を見ていた視線を男に向ける。男は、言葉の意味をさぐるように眉根を寄せてこちらを見ていた。
「僕は死にに来たわけでも、生きるために逃げてきたわけでも、ないのですよ」
長く、とても長くお互いを見やっていたと感じたが、おそらく沈黙はほんのわずかだったのかもしれなかった。
こちらの瞳の奥まで覗き込んでいた男が、その貼り付けた無表情を、ふ、と弛緩させる。
意外と早かったな、と男はシニカルに笑った。
「もう少し時間がかせげるかと思ってたよ」
小さくつぶやいて、腰掛けていた椅子の背もたれに体を預けた。
「どうやってたどりついたんだ」
「興味はないのでしょう?」
男はさも可笑しそうにクツクツと笑った。
これから全てを絶たれようとしているというのに、まるで親しい友人を見るようにこちらを見、哄笑している。


2/10/2024, 12:37:45 PM