仮色

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【イブの夜】


『クリスマスの予定なんも入ってない…』

前、そんなふうにしょぼしょぼ嘆いているのを聞いてしまったから。
もしかしたらイブも空いてるかもって。
…クリスマスに誘う勇気なんて、今の僕には無いから。
緊張で強張る指で、スマホの画面を操作する。
あともういっこ操作したらもう電話が掛かってしまう画面までいって、覚悟を決めた心がぐらぐらと歪み始める。
僕なんかが誘ってもいいのかな…そもそもクリスマスの予定が無いだけでイブの予定はあるのかもしれないし…。
さっき覚悟を決めたのにうじうじし始めた心に喝を入れて、僕はそっと通話のボタンを押した。
prrrr、prrrr、と静かな部屋にコール音が響く。
1コール、2コール、3コール…やっぱり電話なんか掛けなかったら良かったかもしれない。
手の中で結構なコール数分スマホが震えて、だめだったんだと電話を切ろうとした時だった。

『っもしもし!ごめん手が離せなくって出るの遅くなった!』

相手が電話が出るのを待っていた画面が、通話中の画面にサッと変わった。
スマホから、焦ったように大きな彼女の声が聞こえてくる。

「あ、いや全然大丈夫。忙しい時に通話出てくれてありがとう」
『優しい〜、ありがとう。で、どした?電話掛けてくるの珍しいじゃん』

早速本題に入ろうとしている話題に、スマホを持っている手をぎゅっと握って口を開いた。どくどくと鳴る心臓がうるさくて、向こうにも聞こえていないか心配になってしまう。

「あの、さ…今日夜とか空いてたりする?一緒に出かけない?」
『あー待ってごめん、夜は家族と過ごす予定がある…』

少し下がった声色で言われた断りの言葉に、がっくりと肩を下ろす。
やっぱり空いてるのはクリスマスだけだったか…と通話を切り上げようと口を開いた時、焦ったような声がスマホから聞こえた。

『ちょ、待って待って、今日は空いてないけどクリスマス当日は1日空いてるよ〜…? そっちが予定空いてるなら明日出かけるっていう手も、ねぇ?なきにしもあらずと言いますか…』

早口でつらつらと言われた言葉を、僕の頭が理解するまで数秒かかった。
彼女がクリスマス当日に出掛けようと遠回し…遠回しとも言えないかもしれないが、誘ってきていることを理解した時、考えるよりも先に口が回った。

「じゃあ明日はどう? 出かけるの」
『あ、うん!いいよ! 明日ならめちゃくちゃ空いてる!』

途端に明るくなった彼女の声に、少し期待してしまうのを感じてしまう。
それから僕と彼女は、集合場所と時間だけ決めて通話を切った。

クリスマスの予定…できちゃったな。

ぼすっと座っていた自分のベッドに体を沈める。
顔がゆるゆると緩むのは許してほしい。だって、ずっと片思いしていた彼女とクリスマスに会えるっていうのだから。
彼女の反応も悪くなさそうだったし、何なら嬉しそうに見えた。

ちょっとくらい期待しちゃってもいいよね…?

緩んだ顔で、僕は明日の服を選びにクローゼットに向かった。

12/25/2023, 1:28:14 AM