紫乙

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あの頃も同じ気持ちで終わったんだった。
『煩わしい』と言われた事。

性格はまったく違った2人だったけど、最終的には、似たような人だったな。

病気を克服したり、新しい就職先を見つけたり。
今、自分が抱えている不安が消えつつあって、なんとなく新しい明るい未来が見えて来ると、それまで一生懸命助けて来た人を邪険に扱う人達だった。

最初の人は、癌だった。
健康診断で癌が見つかって。でも、不幸中の幸いで、それを取り除けば、後の心配はないと医師から言われた。
片道2時間の県外だったが、私は彼女の通院に付き添った。
発達障害もあり、鬱もあり。
屈折した物の見方、捉え方をする事が、病気をしっかり治す足かせになるタイプの人だった。
今思えば、彼女にとっては矢継ぎ早に感じたかもしれない。
自分の意思で決めていく事を、ただ見守って応援して欲しかっただけだったかもしれない。しかし、それがあまりにも的外れな決定で、治るどころか自滅していくのは目に見えて意見せずにはいられなかった。

悪いことは重なる。
彼女は自分の身体の心配を抱えつつ、義母の急病に、仕事もそっちのけで看病に張り付く夫から、『母親が死にそうなんだから、自分の通院はキャンセルして付き添え!』『お前には思いやりというものはないのか!』と説教された。
どちらも大切なのだが、その夫の心無い言葉に鬱が加速した。

能面のような無表情を見るのは辛かった。
けれど命さえあれば、この先にはきっと良いことだってある。
今は仕方ないと割り切って、彼女の通院に付き添った。
状態が安定していると医師から言ってもらえば彼女な顔色も良くなるだろうと期待していた。

どのくらいかして、通院の期間を長くする事が出来るほど回復した。
説明を受ける時、私も医師の説明を一緒に聞かせてもらえる事になった。
経過は良好で、予定よりも早く治療を終えても大丈夫だと聞かされた。
『あー!良かったね!』私は医師の前で彼女の顔を見てそう言った。
しかし、彼女はまるで他人事のようにニコリともせず、黙ったまま視線を落とし、はっきりとはわからない程度にうなづいた。

次の予約を取り終え、病院をあとに駐車場に停めた私の車に乗った。
それからも殆どくちを開く事なく、表情も暗いままだった。

ただ、送迎のためだけに片道2時間の道のりを走り続けた1年間。
病状は完全に回復していくのに対し、彼女の表情は曇るだけ。
夫が彼女の身体の心配をほぼしないからなのか?

そのまま彼女の自宅付近で車を停める。
少しはお茶でもして、たまにはそこで病気とは関係ない会話などもしてみたかったが、彼女から1度もそんな言葉など出された事はなかった。とにかく、送迎のみで1日食事せずに終わる。

彼女が車から降りるいつもの場所に着く。
お疲れ様とか、ゆっくり休んでねとか、そんないつものありきたりな言葉をその日も言った。最後に彼女は『もう来てくれなくていい。煩わしい』そう言った。
『え??』耳を疑った。
『わずらわしい??』

バカみたいではなく、自分だけバカだった。
自己満足でしかなかったんだ。
調子が良い時は、いつもありがとうとか、そばにいてくれるから、頑張れるとか言ってくれた。
あれは何も心がこもってない挨拶でしかなかったんだ。

それから私は連絡を取り合う事も辞めた。
もちろん、通院の送迎も。
複数の出来事を同時進行させる事が苦手な人だから、私に気を遣いながら闘病するのが面倒だと思うだろう事も理解する。
けれど、ズバリを言われたら関係は終わる。
お見合い相手に
『禿げてる人は好きにはなれない』
『出っ歯はみっともない』
なんて、断る理由に普通は使わないのと同じ。

それきりになって4ヶ月程経過したある日。名前表示のない着信があった。
それは彼女からの着信だった。
私は彼女の連絡先をすべて消したので、携帯電話の番号も暗記していたわけでもなく、それが彼女からだと気づく事もなく無視してしまった。

誰からなのかがわかれば、折り返し電話するか、LINEでも使って電話に出られなくてごめんなさいと連絡するのがいつもの私だが、それが彼女からだとわかっていても、きっともう電話に出る事はなかっただろう。

それからというもの。
私の誕生日にも着信があったが、運転中だった。それから、また数ヶ月後に。今度は勤務中だった。
こうしてすれ違って、完全に縁が切れるのだろう。

煩わしいという言葉の意味を理解して投げたのかわからないが、それを言ったら関係は当たり前に終わる。
もとに戻りたいとか、また会えないかとか、そんな事を言いたくて電話をしてきたのなら、人の事をなんだと思ってるのか。
芸能人のように、周りに色んな人がいて身の回りの世話までしてくれる、そんな助っ人的な存在の人が多すぎて、贅沢な思いとは知りつつも、たまには1人にして欲しいという気持ちが発生するのならなんとなくわかる。
けれど、彼女が癌と闘っていた事など、家族しか知らない。その家族でさえも、必死になって支える態度もなかった。
転院するためのセカンドオピニオンも、手術の同意書も、私はなんのために関わったのか。

言ったら終わりの言葉を平気で言ってしまう人というのは、先の事もこの言葉の質も、そして2人の関係性も。すべてまとめて、なんとも思ってないし、何も考えてない。大切になんて思ってないから、何を言ってもずっと変わらないと思っているのだろう。ま、こちらが思うほど、相手は私の事を大切には思ってくれなかったという話だ。

『〜〜してもらって当たり前』
という感覚で王様のような人は、気づいたら誰もそばにいなかった。。というのが、当たり前なんです。

トラブルが起きた時はショックだし、心もどんよりするけど、こんな低レベルな事にクヨクヨしているとチャンスも逃す!
今日は雨だが、なかなかやれなかった事をやろう!!







3/22/2024, 11:24:13 PM