こんな夢を見た。半魚人の友人たちが追いかけ回されているというので家に匿った。理由を聞けば、人魚の涙を求めて人間が痛めつけてこようとするらしい。
「だから逃げていた、と」
「そう」
「そうだな」
人魚のような見た目の少女マリンはしょんぼりと答える。その横で、上が魚で下が人間のアクアはため息を漏らす。
「ボク人魚みたいだけど、人魚の涙なんて知らないよ。人間たちが言ってるのって宝石のことでしょ?」
「魚が眼から宝石なんか出せるか。オレたち半魚人は人間と一緒で塩辛い液体しか出せねえよ」
「え?ボク、出ないし泣かないよ?」
「え、そんな人間みたいな見た目してるのにか?」
「うん。あ、もしかして陸に上がったかどうかじゃない?ほら、アクアは陸上で過ごしてるじゃん」
「そりゃ人間の足じゃ常に泳げないからな。足つるし。…いや、マリンの方が陸に上がるべきじゃないのか。人間は水中で息できないだろ」
「人間の上半身だけど、エラは退化してないから。ほら、ちゃんとあるでしょ」
たしかにマリンの首に三本赤い横線が入っている。
「それ言うなら、アクアの方が…」
話が脱線してきた気がする。
「ええっと、アクアとマリンはこれからどうするつもり?」
声を掛けると、アクアとマリンはお互い顔を見合わせた。
「どうしよっか…」
「そのうち、人間たちも諦めて帰るだろ。それまでオレは寝る。散々追い回されたんだ」
アクアは勝手に私のベッドに横たわり、目を開けたまますぐにいびきをかき始めた。嗚呼、干したばかりのシーツにぬめりと鱗が…。真っ白のシーツにアクアが寝ていると、まな板の鯉と言う単語がチラつく。
「うーん…ボクも体乾いてきたし、お風呂場借りてもいい?」
「いいよ」
私の横を通るマリンの耳にキラリと何かが光った。
「あれ、マリン。何か光ったよ?」
「ああ、これ?」
マリンは私に近づくと、耳飾りを見せてくれた。小さな真珠とドロップ型の大きな水色の宝石が、マリンの耳で揺れている。
「ママがボクのために作ってくれたの。ボクの名前と同じ石と真珠でね。ボクがどこかにお嫁に行くときに着けなさいって」
マリンは照れくさそうに話す。
「ママはすごく有名なデザイナーでね、こういうアクセサリーを作る仕事をしてたの。いつも忙しそうでボクは心配してた。案の定、病気になって死んじゃったんだけどね。でも、後からボク宛の手紙とこの耳飾りが見つかって」
愛おしそうに耳飾りを触る。
「不謹慎だけど、ボク嬉しかった。ママはボクのこと忘れてなかったんだって」
初めて聞くマリンの母の話に口ごもっていると、マリンはにっこりと微笑みかけた。
「…なんて、しんみりさせちゃった。ボク、もう大丈夫だから。お風呂場行ってくるね」
「う、うん」
マリンがお風呂場に引っ込むと、途端に静かになった。ベッドの方からアクアのいびきが聞こえるくらいだ。
「…テレビでもつけよう」
テレビをつけると、ニュースが流れ始めた。
「…美術館に寄贈された『人魚の涙』が盗まれ、犯人は未だ逃走中…」
人魚の涙…。アクアとマリンが言っていたが、まさかこれのことではないだろう。あの二人が盗みなんかするわけない。それでも気になって、ニュースの続きを見る。『人魚の涙』は有名デザイナーの遺作であり、家一軒が建つほどの値がつくらしい。画面の『人魚の涙』は、マリンが着けていた耳飾りにそっくりだった。
「見たな」
背後から低い声が聞こえた。振り向くと、アクアが立っていた。
「どうして盗みなんか…」
「盗んだんじゃない。あれは元々マリンの物だ。手紙には娘への贈り物だと書かれていた。にも関わらず、勝手に美術館に寄贈されていたんだ。『人魚の涙』としてな」
「だから、取り返したの…?」
アクアは頷く。
「オレもマリンもお前のことを友だちだと思っている。お前もそうだろ。オレたちに協力することなんてわけないことだよな?」
私は頷くしかなかった。
3/18/2026, 9:23:09 AM