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あぁ。どうすればよかっただろうか。
それが今もわからない。

それは数年前のこと。友人に相談を受けた。なぜ人間は生きているのかという相談だった。そんなこと私にもわからない。だが相談を受けたからには何か答えようと思った。だからなぜ自分は生きているのかを答えることにした。私は毎日ご飯を食べるために生きている。どんなに辛いことがあってもご飯を食べることに幸せを感じる。ほんとに辛い時や何かを頑張った時にはご褒美に少しいい物を食べる。それを生きがいにしていると彼に伝えた。

彼は少し辛そうな顔を見せたあとニコッと笑い、
「○○らしいな」と言い、感謝を伝えたあと私のもとを離れた。それから彼から相談も連絡も来ることがなかった。2年ほど経っただろうか、彼から連絡が来た。なにかあったのかと思ったら、彼から話したいことがあるとのことだった。週末に会う約束をした。

週末、私の家の近くのカフェで話すことになった。前に会った時あまりにも違う彼の格好に私は目を丸くさせた。前はふくよかな身体で顔もまるまるとしていた。なのに今はと言うと身体はやせ細り今にも折れてしまいそうなほど痩せ、やつれていた。

「随分痩せたようだけど大丈夫か?」

と私は声をかけたが聞こえていなかったのか反応はなかった。突然連絡を寄越してどうしたのかと言おうとした途端彼が口を開いた。

「この健康食品を買わないか?毎日2食これを食べるだけで理想の体重まで一直線だぞ!」

どういうことだ?彼はなんでこの栄養バランスが取れていなそうな固形の食べ物を勧めてくるのだろうか。
だが私の返事はもう決まっている。

「悪いけど私は普通の食事を楽しみたいんだ。健康になるために食事をしているわけじゃない。というかこの食品を毎日食べているのか?」

どこにでもありそうな固形の食べ物。こんなものを毎日食べるなんて私にはできない。彼は

「あぁ。当たり前じゃないか。これのお陰で俺のコンプレックスだった身体も痩せ周りからデブなんて言われなくなったよ。○○もそろそろ健康を気にする歳なんじゃないか?」

どうして。前の彼ならこんなこと言わなかった。いつからこうなってしまったのだろう。私と話したあとの2年間で何があったのだろうか。そう考えていると彼が

「別に食わなくていい。買ってくれないか?ノルマがあるんだ。まとめて買ってくれたら友人割引もする。なぁ○○、俺ら友達だろ?買ってくれよ。」

私はここで理解した。彼はもう前の彼じゃないと。あの優しい彼がなぜこうなってしまったのだろう。私に相談したときなにか辛いことがあったのだろうか。いや考えるのはあとにしよう。まずは先に彼のもとから離れることにした。

「すまん。君のその食品は買うことはできない。それと職場の方から呼び出しが来たからここで失礼する。お金は置いておくから支払いは君の方でしてくれないか?おつりはそのまま貰っても構わない。じゃあ、これで」

そう言い3000円を置いて私はカフェから逃げるように去った。コーヒーしか頼んでないためそんなにするわけがない。でも彼の痩せた姿が見てられなかったのだ。縁を切るつもりだが少しでもちゃんとしたものを食べてほしい。そういうつもりも込めて3000円を置いた。

家に帰り、頭を整理することにした。相談されたときにもうちょっと彼のことを気にしていたら変わっていたのだろうか。こっちから彼に連絡をしていればもっと早く気づいたのだろうか。たらればなんて意味が無いことはわかっている。でもなにか出来たのではないか。そういう思いがずっと頭の中をかけまわっている。あぁ、どうして。そう思いながら彼の連絡先をそっと消した。

「どうして」

1/14/2024, 2:24:21 PM