ずい

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『春爛漫』

高校生生活が始まった。下駄箱前の中庭で、入学式のころから目の端に写ってはいた部活勧誘が盛んに行われている。
どこにも入る気はなくて、断りきれないチラシだけ受けとっては、右に左に避けていく。
もう少しで下駄箱、と思ったそのとき。

桜がひらりひらりと揺れていた。

自然と作られた観客の輪の中で、彼女たちは浴衣を着て踊っていた。近づいてみれば同じピンクでもそれぞれ刺繍や花の種類、紐などがそれぞれ違う。
中庭にある桜の花が春特有の強い風に吹かれて、踊る彼女たちと一緒にくるくると舞う。
浴衣の柄と本物の桜が共演してまさに春爛漫な風景を作り出していた。
曲が終わり、拍手を受けながら一人の女子が前に出る。
「私たちは日本舞踊部です!文化棟で活動しています」

大輪の桜の花とウグイスの柄。
長い髪を頭の上で一つのお団子にまとめている。
その人は、小さいころ同じダンススクールに通っていた近所のお姉さんだった。
離れようと思うのに、ばちりと合った彼女の目が僕の足をその場に縫いつけているかのようで。
結局、彼女たちの紹介が終わるまで動くことができなかった。

4/10/2024, 11:36:55 AM