青天。
少し暑いが、風が吹くたびにまあいいかという気分になる。日差しを鬱陶しく感じつつも、そんなことを言い始めたらこの先やっていけない。小さな不満を引き出しの奥に押し込んで、いつもの道を歩く。
横を、何かが掠めた。
白いような黒いような、何とも言えない色。形はぐにゃりとしていて、掴みどころがない。深い水底に沈んでいる記憶が、ゆっくりと浮き上がりかけてまた沈んでいくときの、あの感じに似ていた。それでも確かに動いていた。踊るでもなく飛ぶでもなく、スキップのような、軽くて陽気な動きで。
モンシロチョウ、と思った。
アゲハほど自分を信じていない。モンキチョウほど無邪気でもない。大人になりかけで、まだ着地点を決めかねているような、そういう宙ぶらりんの感じ。
でも、モンシロチョウにはまだ少し早い季節だ。色も形もはっきりしない。それじゃあ何なのかという話だけれど、なんでもないと片付けてしまうより、なんでもないところに何かを見つけるほうが、同じ散歩道が少しだけ違う道になる気がする。こじつけで構わないと思っている。むしろそうした方が面白い。
ただ、こじつけを楽しめるのは、たぶん、こじつけだと知っているからだ。信じすぎず、疑いすぎず、その両方をどこかに手放さないでいる。それがなければ、こんな余裕は生まれなかった。優しくも、なれなかったと思う。
風が一度、強く吹いた。引き出しの奥で、何かがそっと動いた気がした。
5/11/2026, 3:39:14 AM