『太陽』
神覧試合の勝者は神への捧げ物として体を割かれ心臓を取られる。幾千もの奴隷の手によって組み上げられた神殿に神官が恭しく“それ”が入った小壺を供えた。神殿の真上に輝く太陽。それがこの国で崇められる絶対の神であった。
神覧試合のことは今でもよく思い出す。
「お前は生きろ」
組み合ったときに最初に言われた言葉に俺はまんまと動揺し、足を掬われて敗者となった。俺がつい最近に妻を娶ったことを相手は知っていたのだろう。地に伏しながらも心の奥底に湧いたのは悔しさではなく安堵であり、勝者には感謝とそして言い表せない罪悪感を抱いた。
太陽へと新たに焚べられた薪は燃え尽きれば捨てられ、次の薪が望まれる。あれから数年が経っていた。妻は泣き崩れていたが、何も知らない幼いこどもは試合へと向かう俺に小さな手を振った。
8/7/2024, 3:16:46 AM