薄墨

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最後の時はいつだって、突然やってくる。

真夏日だった。
窓の外で積乱雲は大きく育って、入道雲となり、空は真っ青に晴れ渡り、太陽がまばゆいばかりに光を放っていた。
真夏日だった。

通話を繋いだスマホを隣に置いて、イヤホンを耳に押し込んで、別行動をした仲間たちの言葉を聞いていた。
蝉時雨と細やかな聴覚情報と隠された真実とそれを知った仲間の苦悩が、一緒くたに流し込まれた。

脳を殴られたような衝撃だった。
この部屋に残って解読していた本の内容も衝撃的な隠された真実ではあったけれど、それよりもずっと、追っていたターゲットと身近な人間が邂逅し、体験した、_今こうして私の耳に流れ込んできている、この隠された真実_の方が、よっぽど冒涜的で理不尽な衝撃だった。

脳がクラクラと揺さぶられるようで、眩暈がした。
私だけはこうして、クーラーの効いた自分の部屋にいるというのに。
真実を語る声の裏で、蝉が喧しく鳴いていた。

なんて世界を私たちは、なんて奇跡で生き抜いているのだろう。
こんなちっぽけな私が、ここまで細かな物語のある人生を生きているのが、奇跡であるように思えた。

それは、隠された真実だった。
今までの選択の清算だった。
今までの思考の答え合わせだった。
そして、今までの頑張りが、見当違いの無であったことの証明だった。

脳が揺らめき、掲げていた目標が霧散した。
悪夢のようだった現実は、隠された真実を手にして目を覚ました途端、かき消えてしまった。

私が頑張る理由は、どこにもなかった。
ドッと湧き上がった疲労感が、体を重たく満たしていた。
じわじわと絶望感が、脳を満たし始める。

仲間たちはまだ必死に、道筋を探そうとしていた。
しかし、隠された真実を知ってしまった私には、もうそこまでやれる理由が残っていなかった。

私は、もはや私にとっては雑音になってしまった声たちから逃れるために、そっとイヤホンを外した。
蝉が喧しく鳴いていた。

7/13/2025, 3:21:38 PM