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《泣かないよ》

 始めて会った日、あの子は泣いていました。
 あの小さな体からこんなにも大きな声が出るのだと驚きながら、私もまた泣いていました。
 多分、あの日が一番嬉し涙を流した日です。

 それからも、毎日あの子は泣きました。
 朝も昼も夜も、私がどんなに笑っていても、悲しくても疲れていても、あの子はお構いなしにぐずって泣き声をあげました。
 どうか泣き止んでと、私は沢山色んなことを頑張りました。今思えば幸福な日々ではありましたが、当時は中々に苦労したものです。
 よく私も、一人静かに涙を流していました。

 まだまだ小さなあの子と手を繋いで、公園まで散歩するのが私はとても好きでした。
 春風が通り抜け、若葉を優しく揺らし、とりどりの花の匂いを連れてきてくれる散歩道。
 ある日、目の前をふわりと飛ぶ蝶を追って、あの子は私の手を離して駆け出してしまいました。
 あ、と思う間もなく、あの子は砂利の上で転んでしまいます。慌てて駆け寄り抱き起こせば、膝小僧が赤く擦りむけていました。
 あの子の目は潤み、頬は赤く、唇はきゅっと引き結ばれています。小石のついた小さな手が、私の服の裾を掴みました。
 ああ、泣いてしまう――私も眉をハの字にした時、丸っこい声であの子が、

「お母さん、ぼく泣かないよ」

 そう言って笑ったんです。
 私の鼻はツンと痛み、視界がじわりと滲みました。
 咄嗟に小さな身体を抱き寄せて、ありったけ抱き締めました。
 苦しいよ、お母さん。そう言ってきゃらきゃらと笑う声。まだ小さいと思っていた背中は、うんと大きくなっていました。
 
 でもね、この先どれだけあなたが大きくなっても。
 痛い時や苦しい時、あるいはどうしようもなく幸せな時。
 お母さんの前では我慢せずに、沢山泣いてもいいんだからね。
 その時私はきっとまた、あなたを目いっぱい抱き締めるだろうから。

 だからどうか、ずっと幸せでいて。

3/17/2026, 11:18:39 AM