この場所で(オリジナル)(異世界ファンタジー)
牢に最後のメンバーがやってきた。
魔法使いのようなフードマントの男だった。
放り込まれた勢いで壁際までゴロゴロ転がって、壁に激突していた。
どんくさい。
「大丈夫か?」
レッジが手を差しだすと、彼は苦笑しながらその手を握って起き上がり、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。私はライといいます。よろしくお願いします」
育ちの良さがうかがえる挨拶だった。彼はいったい、何のキメラだろう。
「俺はレッジ。あっちにいるのはリンク。共にソロで500勝した同士だけど、あんたもか?」
「そう、みたいですね」
みたいとは何だ。リンクは眉をひそめた。
入れられる牢の場所は毎回ランダムだった。レッジとはたまに一緒になる事があって面識があったが、彼とは会った事がない。
「1000勝すると自由になれるそうですね」
自由になったら、何がしたいですか。
彼は唐突に、そんな事を聞いてきた。
レッジとリンクは思わず顔を見合わせる。
「…毎回勝つ事に必死で、後の事なんて考えた事もなかったな…」
夢など持っても、敗北して死んだら意味がない。
そもそも生み出された目的からして、この場所に立ち続けること、戦闘において優秀な成績をおさめることのみが本分だった。
一応「1000勝したら自由」という、都市伝説のような話を聞いたことはあるが、これまで一度も該当者は出ていない。それほど試合は毎回過酷で、新しく生み出されるキメラは優秀で脅威だった。
ソロで一定数勝ち残ると、今度はチーム戦になる。
チームで使えるかどうかのテストだった。
メンバーが減ると補充が入る。
チームの連携が取れなくなって、あるいは仲間に足を引っ張られて、自滅していく者が多かった。
それほどに、生き残る事は難しい。
「…そんな寝言は生き残ってから言いな」
リンクは吐き捨てるように言った。
彼は魔法使いだろうか。接近戦に弱そうで、すぐ死にそうだ。親しくなっても何も良い事などないだろう。
とにかく、今日これからの戦闘に勝たなければ。
リンクは大斧を肩に担ぎ上げ、闘志を奮い立たせた。
「…格好良いなぁ」
眩しそうにリンクを見て、彼は微笑んだ。
「ああ?」
「頑張りましょうね!」
ガッツポーズをしてみせる彼になぜだか腹が立って、ぶん殴ろうとしたが、レッジが素早く救出してしまった。
この鬱憤は試合で晴らそうと思う。
ライはキメラではなく、外の人間だった。
闘技場で彼らの戦いを見物し、衝撃を受けた。
その必死さ、残酷さ、生命力の輝き、強さに。
特にリンクとレッジの戦いに感銘を受けた。
惚れたと言ってもいい。
リンクは女性の姿でありながら圧倒的な腕力と桁違いの炎と迫力で、毎回派手に勝利していた。
レッジは姿を捉えられないほどの素早さで相手を翻弄し、命を取らない戦法に余裕と優しさを感じた。
前のめりで彼らの戦闘に見入って応援していたのだが、そんな時、耳に入ってきた声があった。
観戦している造物主達が、1000勝後の自由について嗤っていた。希望をチラつかせて絶望する彼らが見たい。どうせ誰も勝ち残れるはずがない。そのように対戦を組んでいるのだから、と。
懸命に生きる彼らに対して、侮辱も甚だしい。
猛烈に腹が立った。
ライは彼らに食ってかかった。
1000勝したら必ず自由を約束しろ、と。
それを言えるだけの後ろ盾がライにはあった。
なので、チーム戦に自分が参加する事も了承させた。
「キメラの性能テストなのですから、出しゃばることはやめてください。もし魔法を一度でも使ったら即やめていただきますからね。上にバレるわけにはいかないので末端には知らせませんから、待遇は保証できませんよ。でも、死なれても困ります。絶対死なないでくださいよ」
キメラ開発の責任者はオロオロしながらそう言った。
いざという時は魔法で身を守る事を約束して、ようやく参加を許された。
そうしてライは、キメラを装って憧れの二人のもとへ向かったのだった。
(2日前のお題「花束」に続く)
2/11/2026, 11:36:53 AM