"歌"
窓辺に座り込み、彼女は小さく歌を口遊む。
優しい、愛しい、子守り唄。
童歌が唱歌に繋がり聖歌に至り、やがてクルリと一巡り。最後の一音の残響が消えたあと、もう一度最初から繰り返す。
お気に入りの曲を飽きることなく何度も、何度も。
彼女特有の紅い歌声で紡がれたそれらは、宝石のようにキラキラと瞬き降り積もっていく。
あの時、彼女は笑っていたのだろうか。
それとも泣いていたのだろうか。
こちらに背を向けて月を見上げる姿からは窺い知れなかった。
今でも鮮明に思い出せる。
まぁるい珊瑚のように転がり零れた言葉の粒を。
赤く、紅く染まり沈んでいく音の響きを。
5/25/2025, 12:16:25 AM