紅月 琥珀

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 後悔は先に立たずという言葉があるが、私の人生を例えるならば⋯⋯きっとその言葉が一番似合うのだろう。

 最初の後悔は初恋の時、親友に相談していたけれど⋯⋯私が二の足を踏んでいる間に、親友に好きな人を取られた。
 後から謝られ、それでも親友だよねと聞かれたが、私にはそれを受け入れるだけの器はなかった。
 2回目の後悔は大学生の頃、彼氏に浮気されてとりあえず冷静に話を聞いた。
 その時に、そういう態度が気に食わないと言われたが、私としても浮気する様な男と関係を続けるなんて嫌だったからそのまま別れた。
 最後の後悔は今この時。
 終末間際に思い出される後悔の数々。
 大小様々な後悔が、もうすぐ終わりを迎える時に押し寄せる。
 そうしてたらればを思い、今までの私の人生って何だったんだろうって思ったら泣けてきた。

 もしも、あの日親友を心から祝えたら今この瞬間、私は1人ではなかった?
 或いは、あの時彼の浮気を半狂乱になりながら罵って縋っていれば、幸せな家庭を築けていたのだろうか?
 実家の家族ともあまり仲良く無いし、友人と呼べる人もいない。一人寂しく後悔しながら、終末を迎えずに済む方法があったのだろうかと⋯⋯終末を宣告された時から考えていた。
 でも結局、過去なんて変えられるはずもなく。私は今も1人のまま。いっそこのまま地獄に落ちて、幸せとは無縁の牢獄に囚われた方のが幸せなのかもしれない―――なんて、出来もしないことを思ったりもした。

 馬鹿みたいな大きな独り言。こんなものを残されて、奇跡的に生き残って見てしまった人は不幸だろうなと、そう思いつつも⋯⋯今の私の気持ちを綴らずにはいられなかった。
 それは終末への恐怖もあるけど、本当はあの日の大きな後悔を誰かに知って欲しかったんだと思う。そして出来ることなら、これを読む人は親友だった彼女か元彼に読んで欲しいなんて思ってる。

 あの日あの時。本当は祝福したかった。でも、2人の事が大好きだったから裏切られたと感じてしまった。それが、その感情が嫌で、自分がとても惨めで醜い事を知り、自分自身に失望してしまったんだ。
 彼の時も本当はたくさん言いたいことあったけど、無駄だと思って全部飲み込んで別れた。
 もしもあの時、私がちゃんと自分の事を話していたら何か変わってたのかな?
 今となっては答えなんて分からないけど⋯⋯それでももし、今の私の気持ちがあの人達に届くのなら―――どうかこの終末の中で、何の未練も不安もなく。心穏やかに、沢山の幸せに包まれて眠れますように。


 その人が自身の最後に選んだのは高台にあるベンチの傍らで、懸命に手放さないようにと握り締めていたであろうその遺書は、息絶えた時に力が抜けたのか⋯⋯握る力が緩くなっていて、取り出すのは簡単だった。
 ぐしゃぐしゃの遺書には所々濡れた跡があり、泣きながら書いていた事が伺えた。
 彼女の惨状は今までで一番酷く、多分一瞬では死ねなかったのでは無いかと思う程、裂けて飛んできたであろう大きな木の破片が、彼女を地面に縫い止める様な形で貫いている。

 彼女はここで何を観ようとしたのだろうか?
 最後の瞬間に訪れたいと思う程に、ここは彼女にとって大切な場所だと言うことだけは理解できたけど⋯⋯昼の景色は瓦礫の森が広がり、所々に原型を留めた建物があるのを確認できる程度。
 あとは、いつ見てもムカつく程に晴れ渡ってる青空が広がっているくらいだ。
『夜まで待ったらわかるかな?』
 そう誰に言うでもなく呟くと、その辺の残骸を撤去して野宿の準備を始める。
 なんとか準備を終えた頃には夕暮れ時になっていて、その時にもう一度街を見たら⋯⋯何とも物悲しく―――けれども綺麗に染まるオレンジの街並みが見えた。
 それを暗くなるまで堪能し、夜になると空には綺麗に輝く月と満天の星空が広がっている。
 誰もいない。人工の光もない。何よりもここは高台だから、いつもよりも星々が近く感じられた。
 そして理解するのは、終わりの時にこの場所を選んだ理由。
 だからこそ、最後の瞬間(とき)まで答えを探していた彼女に、私の出した答えを一方的に聞かせてやるのだ!
『ねぇ、貴女。きっと腹を割って話せたなら、分かり合えたと思うよ。元彼は別れて正解だと思うから、後悔する必要ないと思うけど⋯⋯でも、親友とはきっと分かり会えたんじゃないかな?
 もしも、死後の世界があるのなら、そこで再会して話せると良いね。
 貴女のおかげで綺麗な景色が見られたよ。
 ありがとう、おやすみなさい』
 そう言い終わると寝袋に入り夢の中へ。

 その日見た夢は彼女と、見知らぬ女性が互いに笑い合いながら何処かへと歩いていくモノだった。
『よかった、もう1人じゃなくなったんだね』
 きっと聞こえないと思って呟いた言葉に、二人はこちらを振り返り―――とても綺麗な笑顔で手を振ると光の中へと消えてしまった。

 そうして朝をむかえてその場を後にする。
 次はどんな出会いと景色が待っているのかと、胸を躍らせながら私は高台を降りていくのだった。

2/5/2025, 3:23:44 PM