お外に出るのは初めて。
「ここで待っててね」
うん、わかった。
「おもちゃとおやつ、いっぱい買って来るからね」
わぁ、嬉しいな。
「じゃあね·····バイバーイ」
いってらっしゃい。待ってるね。
おもちゃとおやつ、楽しみだな。
でも、本当はね·····おもちゃもおやつもいらないんだ。早く帰ってきてくれて、お家にあるおもちゃで遊んでくれるのが一番嬉しい。
だから早く帰ってきてくれるように、ここでいい子で待ってるね。
青かった空が赤くなって、紫になって、黒くなって。
灰色になって、白くなって、黄色くなって、また青くなっても、ずっと待ってる。
あ、冷たい。
僕知ってるよ。これ、雪って言うんだよね。
雪ってこんなに冷たかったんだ。
·····まだかな。早く帰ってこないかな。
冷たいよ。
ぶるぶる、がたがた。
体が震えてきた。
早く帰ってこないかな。
「待っててね」って言ったから、ずっといい子で待ってるんだ。
雪が僕の周りにいっぱい積もってきた。
冷たいな。·····早く帰ってこないかな。
灰色の空から、冷たい雪が次から次へと降ってきて、僕の体がすっぽり埋まって、もう空が見えないや。
冷たいなぁ·····暖かいお家に早く帰りたいなぁ·····。
「待っててね」って言ったから、ずっといい子で·····ここで待ってるんだ。
◆◆◆
「良かった! 目開いたよ!」
「本当!? 良かった! 早くお湯持ってきて!」
「ミルクあっためました!」
「うん! がんばれ!」
「絶対死なせないからね!」
·····僕、どうやら〝捨てられちゃった〟みたい。
何がいけなかったのかなぁ。
暖かいこの部屋は、見たことない人と見たことない物でいっぱいで、頭の中がぐるぐるぐるぐる、こんがらがってぐちゃぐちゃで、これからどうなるのかすごくすごく、怖かったけれど。
温かいミルクがとっても美味しかったのと、初めて見る人達がとっても優しかったから、もう少し、人間を信じてみようと思うんだ。
――ミャア。(本当に、もう少しだけね)
END
「待ってて」
2/13/2024, 11:26:54 AM