わをん

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『友達』

中学からの同級生の彼に家族が増え、巣立ちを迎え、伴侶に先立たれても僕と彼とは友達のままでいる。
「お前は俺にいつ告白とかしてくれるわけ」
空いたグラスに瓶ビールが注がれる。昔はジョッキを何杯でも空けていたふたりはいまや大瓶一本で満足できるようになってしまった。居酒屋の隅に置いてあるテレビは野球中継を映していて、食い入るように見る人、気にせずそれぞれの酒を飲む人とさまざまだった。雑に注がれたビールの泡がすぐさま消えて炭酸が抜け出ていく。
「しないよ。友達のままでいたいから」
手酌で彼のグラスにビールが注がれて、それで大瓶は空になった。
「友達じゃなくなったらこうして瓶ビールとか枝豆とかシェアしてくれる人がいなくなっちゃうでしょ。僕らの年でそういうことしてくれる人は貴重だよ」
「確かに」
納得したようにグラスを空にしたふたりだったけれど、揃って店をあとにする間際に彼が言った。
「同居人ならビールも枝豆もシェアできるんじゃね」
「えっ」
「次また飲みに行くときまでに考えといてくれ。部屋は掃除しておくから」
この年で友達をやめてそして同居人になるという選択肢が出てくるとは思いもよらなかった僕はそれじゃと手を振る彼に手も振れず、今も言葉が出てこない。次第に胸の隅から中学生の頃から積み重ねてきた想いが大声で主張を始め、まだ遠くへは行っていない彼の行方を追おうと脚を動かし始めた。

10/26/2024, 6:32:54 AM