三口ミロ

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〇スリル

晴れ渡る良き春の日。とあるテーマパークの名物である、ホラー系アトラクションに並ぶ男女がいた。二人はお揃いのカチューシャをつけて、仲良く列に並んで自分達の順番を待っている。
カップルでテーマパークに行く時、鬼門とされるのは待ち時間である。数分の楽しみの為に、する事も少ない中で何時間も待つのは中々に堪える人が多い。人の本性が見られるのは酒とテーマパークのアトラクションの待ち時間である。
しかしこの二人には全くもって関係の無い話であった。女の子が男の子に向かってあのね、それでね、と話を一生懸命するのである。男の子が退屈しないように話を用意したようで、講談とまではいかないものの、順序を組み立てて話をしている。男の子はそれをニコニコ聞いて、しっかり相槌を返している。そんな調子なので、雰囲気が悪くなるなんて事は微塵も無さそうだった。
女の子が一生懸命話をしていると、列はどんどん前に進む。あと四、五グループがアトラクションに入れば、次はこの二人の番になるという所まで来ていた。度々出口から人が出てくる中に、この二人と似たようなカップルがいた。女の子が「怖かったぁ!」と涙目になりながら男の子の腕に絡み付き、男の子は笑って「だから言ったのに。」と言いながら女の子と一緒に去っていく。
そんな二人を見て、一生懸命話をしていた女の子は話を止めた。それは、女の子が「全く怖がらない女の子って可愛くないかな……」と考えたからである。
というのも、この女の子はホラーが大好きで、スプラッターでもサイコホラーでも、どんなホラー映画を見ても一ミリも怖がらず楽しむタイプだからだった。このテーマパークに来たのも、このホラー系アトラクションを体験してみたかったという理由が大きくある。それまで頑張っていた話を止めてじっと真剣な顔をして固まった彼女を見て、ニコニコしていた男の子は不思議に思い、「どうしたの?」と問い掛けた。
すると女の子はハッとし、ぴよぴよ汗を飛ばした後、ぴと…と男の子の腕に寄り添った。
男の子がいきなりの事に頭に疑問符を浮かべていると、女の子は「ちょ、ちょっと怖いかも…。」と言う。
女の子は完璧だ!と思った。こうすれば彼氏に引っ付けるし、可愛いって思われるかも!と思った。男の子にホラーが好きなのを言った事がない為、バレないだろうと。
しかし男の子にはこれが嘘だとバレていた。彼女はいつも使っているカバンにホラー映画の不気味なマスコットを付けていたし、家に行った時ホラー映画のBluRayケースが並んでいたのを見ている。なによりテーマパークに来た時、女の子は「ここ行ってみようよ」とホラーエリアを指差していた。
男の子はなんとなく女の子の考えを読み取り、ニコニコして「じゃあ、手繋いで入る?」と聞いてみた。すると、女の子はぱっと笑顔になって「うん!」と頷いてギュ!と手を握った。馬鹿である。
しかし男の子はニコニコ彼女を眺めて、可愛いなぁ、と思うので、結果として女の子の思い通りなのであった。

11/12/2023, 3:24:20 PM