『僕の力をクリスタルにこめたよ。身に宿せば世界一の魔法使いも夢じゃないさ!』
どこかに隠したから探しにおいで、と世界各国に挑戦状を出し、その天才少年は行方をくらませた。
その姿は、やれ北の国で見た、やれ西の森で見たなどと伝聞は聞くが、実際に見た人の話しは聞かない。
(金一万Gなんて目じゃねぇくらいの大財産だってのに、モノは愚か元所有者さえも見つからねぇなんて。みんな血眼になって探してらぁ)
とある酒場で酒を片手に、男は肘をつきながら1Gコインを指で弾く。
(俺も“夢”を当てて一財産築きたいねぇ)
ほろ酔いの頭で夢物語を描いていると、酒場の窓から見える森で何か光った気がした。
「ん?」
見間違いかと思い、再度目を凝らして見たが、しばらく経っても何も見えない。
(何か反射したんだろ)
気のせいだったと思い直し、本日5杯目の酒を通りがかった店員の女に頼む。
酒を待っている間、手持ち無沙汰にコインで遊びながら窓の外を眺めていると、先ほどと同じ光が見えた。
また気のせいかと思ったが、今度はすぐにもう一度光った。
(おいおい、気のせいでも反射でもねぇ、何か光ったぞ。これは大昔に見た漫画みたいに……もしかすると、もしかするか!?)
お待たせしました、と酒を持ってきた店員の手ごと持ち手を掴まん勢いで酒をあおり飲み、いささかふらついた足元を気合で立たせる。
そのまま支払いを済ませ、明かりも持たずに、すぐさま光の見えた森の奥へ急いだ。
(もしかすると、もしかすると――大金持ち!?いや、大魔法使い?俺、剣士だけど)
期待に胸を膨らませながら、男は反射した光を例のクリスタルだと夢見て歩を進めた。
夜の一人歩きは危険だと、冒険者の誰もが知る森の中へ――。
/7/3『クリスタル』
7/3/2025, 7:37:29 AM