新年
新しい年が明けた。
私が子どもだった昭和後期、日本にはまだ幾分、今よりもお正月らしさが残っていたような気がする。
うちから一本道を隔てたところにある商店街は、いつもなら八百屋や魚屋のおじさんの威勢の良い呼び込みの声が響いているが、お正月はほとんどの店にシャッターが下ろされている。
その寒々とした灰色の蛇腹の面には、揃えたように謹賀新年のあいさつと年始の仕事始めの日が書かれた縦長の印刷物が張り出され、町自体もいつもとは打って変わって閑散としていた。
一方、新年が明けた我が家では、食卓に母が用意したおせちやお雑煮が祝い箸と共に所狭しとひしめき合っている。
祖母を始めとして、父母兄そして私の五人でこたつを囲むのが新年の習わしだ。
こたつの中ではすでに猫のミミがど真ん中の一番良い場所を確保していた。
いつもならここからこたつの陣地取りの兄妹喧嘩が始まるところだが、この朝だけは平和だった。
なぜなら強制的に正座をされられているためだ。
ミミにとって元旦のこの朝だけはこの上ない居心地の良さだったに違いない。
家族で囲む新年初めての食卓は、いつもよりもピリッとした空気が漂っていた。
「さあ、お父さん。」
母から促され、父が新年の言葉を述べる。
「あけましておめでとう。今年もそれぞれが努力して充実した年にするように。」
これは主に兄と私に対しての言葉だ。
「はい。」
二人揃って返事をすると、続いて念願のお年玉の配布となる。
父と祖母からそれぞれポチ袋に入ったお年玉をもらう。
もうこれで八割方、お正月の目的は達成したも同然だ。
そこからようやく食事が始まるのだが、子どもである私にとって食卓の上のどのご馳走よりも、お年玉のことで頭がいっぱいだった。
翌日二日には、おじさん一家が我が家を訪れ、いとこたちと近所のおもちゃ屋(ここだけは毎年二日から開いていた)で年に一度の散財をしたり、羽付きや凧揚げをして遊んだ。
そう言えば、まだこの頃の日本にはゲームもパソコンも、もちろんスマホもなかったな。
退屈ではあったけれど、なかなか趣があって豊かな時代だったように思う。
ちなみにZ世代におせちの中で一番好きな物は?と聞くと、唐揚げと答えるそうだ。
世も末だ。
お題
新年
1/1/2025, 4:28:04 PM