シオン

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「デウス様が呼んでいるから来い」
 いつもの様に書庫で勉強しようとした二人の元にプロムがやって来て簡潔にそう伝えた。
 ウィルは苦い顔でその言葉に頷き、書物を片付けに椅子から立ち上がった。
「……デウス様が、ボクを呼んでいるんですか……?」
「お前だけでは無い。ウィルもだ」
「……ウィルさんも」
 サルサは神妙な顔で呟いた。プロムはため息をつきながら言った。
「デウス様がお前たちを叱りたいなら俺を使いに寄越したりしない。そんなに丁寧に呼ぶくらいなら手紙でも、あるいは自身の前にワープさせたりするだろうからな。…………まぁ、要するに悪い知らせじゃないってことだ」
「……! 本当ですか……!」
「俺が嘘をついてどうするんだ。全く……そんなことも自分で考えられないとお前まで低俗だと思われるぞ」
 プロムは頭を抱えながら呟く。書庫の中は相変わらず静かで、ウィルがどこかで本を置いている音が聞こえる程だった。
「…………最近はめっきり書庫の利用者が減ったな」
「……前は、違ったんですか?」
「こんなに静かではなかった。本をめくる音、誰かの息遣い……そんな些細なものが聞こえてくるような場所だった」
 プロムはサルサを見つめて言った。
「……お前のせいだ、なんて言ったらどうする?」
「………………え?」
「お前がいるからここは静かになってしまった、と。何も知らぬ人間がここにいるから不快感を感じてしまったと」
「……………………」
 サルサは苦しそうな顔でプロムから目を逸らした。
 プロムの言うことは確かに有り得る話ではあった。城に勤務する者は全てこの世界で生まれた者であり、サルサは元々供物としてこの世界に来たという事実も存在すれば忌避されてもおかしくない話だった。
 眉を下げて悲しそうな顔をしたサルサに対してプロムは諦めたような顔をして言った。
「……嘘だ嘘。書庫の利用者が減ったのはお前が来るよりも前からだ。お前のせいではない」
「……良かった」
 サルサは息をついて微笑んだ。
「……お待たせしました」
 ウィルが戻ってくるとプロムは瞬きを一回してから歩き出した。
 エレベーターに乗り込んでプロムが最上階のボタンを押す。外が見える構造になっているエレベーターだと気づいたサルサはウィルをチラッと見た。
「……いいですよ。このエレベーターに乗れることはあまりありませんしね」
「……! ありがとうございます!」
 サルサは嬉しそうに奥の壁から下を覗く。そんな様子を微笑ましそうに見ていたウィルにプロムは耳打ちした。
「…………書庫の利用者が減っているからお前はあそこを勉強出来る場にしたのか?」
「………………だったら、何か?」
「バカだな。減っているとはいえ、ゼロでは無かったはずだろう?」
「もうゼロです。誰も使っていませんよ」
「…………何故」
「……貴方が聞きますか?」
 ウィルが眉をひそめてそう言うと、プロムは意地悪そうに微笑んだ。
「……人間がいるから、か?」
「…………まぁ、そんな理由でしょう。……それにしても」
 ウィルは一呼吸入れてから少し微笑んで言った。
「……貴方がサルサさんに言わないとは、少しは成長したということですか?」
「…………ふざけるのも大概にしろ。……デウス様がえらく気に入ってるからだ」
「……なるほど」
 ウィルがそういった時、エレベーターは最上階へと到着した。

1/25/2025, 9:30:02 AM