夜空の音

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新年

「いらっしゃいませ、こんにちは。」
新年早々に長蛇の列を目の前に、ため息を吐く暇すら無くキリキリと動き回る。
「お先にお飲み物失礼します!」
不安定なドリンクが倒れないように気を配りながら、下に手を添えながら袋を渡す。
「お客様、申し訳ございません。お食事が少々ご準備に時間がかかってしまっておりまして....。進んだ先、右手にありますゼブラゾーンでお待ちいただけますか?」
少しイカついお父さんドライバーは、ムッとしながら頷く。流れていく車へ頭を下げながら、手元だけ次のお客様の準備を始める。

「ゼブラ上がったから、持ってって!」
「はい!」
反射的に返事を返し、目の前のお客様に失礼しますと声をかけてその場を離れる。
かなりの量で、3袋に詰められた物を前に、よくゼブラに送ってから3~4分で用意できたなぁと舌を巻く気分だった。
「ぬけます!持っていきます!」
小走りに同僚の間をすり抜けて裏口にまわる。
「お客様、大変お待たせしました。申し訳ありません。こちらお食事で」
「おっそいねん!ざけんなよ!!」
お父様、ご乱心....。なんて良くあることすぎて心の中ではあらまぁ程度に思っていた。
「大変お時間お取りしてしまいましたね。誠に、申し訳ございません。」
すみません、申し訳ありません、そう言いながら手に持つ袋を渡していく。奪い取るようにしながら受け取るのを見て、あぁ、中のものぐちゃぐちゃなるのに....とため息を吐きたくなった。
最後の袋を奪われた時、いちばん大きく揺れた袋はお父さんの顎に直撃した。
「大丈夫ですか?!」
心配は不要だったようだ。
「....お前のせいで、ぶつけた!ふざけんな!」
「も、申し訳ございません....。」
反論する訳にもいかず、素直に謝罪を口にして頭を下げようとした。その時、何となく嫌な感じがして、思わず車から離れた。
間髪入れず、少し視線を下げてた私の視界には、先程まで足があった場所をタイヤが滑って行った。
「お前死ねよ!クソが!」
お父さんは怒鳴りながら車を運転して消えていった。

「すみません、戻りました!」
「遅かったけど、なんかあった?」
建物に急いで帰り、元の場所に立つと店長が心配してきた。
「あ〜....えと、死ねとお怒りでした。高校生が行かなくて良かったです。」
帽子をグッと深く被り直しながら答える。
「お客様こんにちは、ただいまご準備しておりますので少々お待ちくださいね。」
周りがギョッと心配の言葉をかける中接客を続ける。そして、大丈夫ですよ、よくあるんで。と笑って見せた。


その数時間後。少し店も昼時をすぎて落ち着いてきた。
「お客様、前の窓口へお越しください!」
離れた場所で止まってる車に、身を乗り出して声を張る。
ノロノロとやってきた車に1つお辞儀をして、
「いらっしゃいませ、お客様のお会け....」
思わず言葉を止めた。

揺れている。
そう判断した直後、フライヤーがエラー音をけたたましく鳴らし出した。
目の前のモニターはゆっくり右へ左へ振り子のように振られている。
高校生も、主婦も、戸惑ってその場を動けずにいる。
厨房の外国人は叫び出した。

「会計、カードで。」
車に乗ってるの気づきにくいらしい。
「え、あの....地震なんで、お待ちください....。」
「え?」
申し訳ないとも思いながらも、これ以上この人に構っていられない。
時間帯責任者か、店長か、誰が対応してるかと周りを見渡す。店長は、いない。時間帯責任者は、3人もいるのに全員フリーズかパニック中。
まともに、頭を回せてる人は居なさげで....。
「厨房!火元から離れてください!こっち、前出てきて!」
仕方ない、これで事故が起きるよりはマシだ。
「君ら!モニターからも離れて!揺れてるから落ちるかもしらない!
お客様、窓から離れてください!」
ジワジワと動き出す傍らで、外国人は叫び続けている。
「Come here!Come front!」
なんとか頭の中で組めた英単語を彼らに叫ぶ。

揺れが収まると、今度は油やフライヤーが点火できなくなった。
レジも止まった。
時間帯責任者と店長はバタバタとしていて、高校生や主婦は呆然とその場に突っ立っていた。
私は店長らに相談する余裕が無いのを見て、無断で客席に破損や怪我人が居ないか確認するように指示をした。商品の受け取り待ちのお客様に、揺れの影響でエラーが多く発生していて時間かかっていると説明をするように指示をした。ドライブスルーに走って、コーンを立てた。デリバリーのおじいちゃんとドライブスルーに入ってこないよう規制した。

仕事が終わる時間になった頃には、私は疲れ果ててお昼のお父さんの事なんて忘れていた。ただ。
新年早々、何してんだろ。
そう、タバコの煙と共に、やっとため息を吐いた。

1/1/2026, 11:19:44 AM