鶴づれ

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束の間の休息


「これ、間に合うか…?」
 何度も浮かんだ疑問を、美術室で呟く。
 目の前には明らかに未完成と分かる絵。たたみ半畳ほどのキャンパスに、ツルが生い茂る魔法使いの部屋が広がっている、私の最高傑作になる予定の絵だ。
 高校の美術部に入って、人生で初めてこんなに大きな絵を描かせてもらった。だか、時間の見積もりが甘かった。県展の締め切りは明日なのに、仕上げ作業が全く終わらない。
 水彩絵の具での下塗りは済んだのだけど、色鉛筆での影や光の描き込みが地獄だった。なんというか、もう…。
 なんでこんな絵にしたんだろう、というところから考えなくてはいけない程だ。ツタとか、多すぎて面倒くさい。終わんない。
 脳死で影、書き込んでこう。そうしよう。
 束の間の休息など優雅なものは取れそうにない。とにかく描かねば。

 翌日、なんとか締め切りに間に合わせた後。
 顧問の先生に聞いたのだか、締め切り前夜の美術室からは、私と同じように県展に追われる部員たちのうめき声や叫び声が、お化け屋敷のように聞こえてきたらしい。

10/8/2023, 1:50:30 PM