備忘録

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絶対に諦めない

圧倒的な力の差があっても

どれだけの年数がかかっても

私の全てを捨てることになっても

希望がなくても


どれだけ走っただろう。ゴールはまだ見えない。
脚の感覚がない。息をするのもやっとだ。
私はどこを走っているのだろう。周りには何もない。
ただ暗闇だけが私を見ている。
「まだ続くの?」
「あとどれくらい走れば良いの?」

私の脚は止まろうとしない。
もう走りたくないのに「走らないと」と私が言う。

私以外に人はいない。
走ってる人はもちろん、私をみる人も。

「何を言っているんですか。私がいますよ。」

暗闇のどこかから声がした。走りすぎて幻聴まで聞こえてきた。仕方がない、限界なんてとっくに超えている。幻聴の1つや2つ聞こえてもおかしくないだろう。

「幻聴じゃありませんよ。リン君。」
「え?」

後ろを振り返ると白髪の背の高い男の人がいた。
その人を視認すると何故か脚が走りをやめた。

「やっと気づいてくれましたか。」
男の人はニコニコとこちらをみている。

「なんでいるの?団長。」
そう、私に声をかけてきたのは団長だった。

「リン君。どこまで走るんですか?」
こちらの質問を無視して聞いてくる。

「どこまでって、ゴールまで走らなきゃ。」
「そのゴールはどこですか?」
「それは、分からない。まだまだ先なのかも。」
「ゴールがどこか分からないのに走って意味はあるんですか?」
「それは、えっと、、、」
分からない。

「ゴールは、きっとどこかにあるから。私はそこまで走るの。」
「もう体力はないように見えますがそれでも走るのですか?」
「もちろん走るよ。一度決めたことだから。絶対ゴールまで走る。」
「ゴールまで走るなんていつ決めたんですか?」
「え?」
「いつ決めたんですか?」
「えっと、走る前に、多分。」
「そうですか。リン君らしいですね。」
団長はその言葉っきりなにをするわけでもなく私を見つめる。その顔は絶えず笑みを浮かべていた。

「何もないの?じゃあ、私もう行くから。」
「待ってくださいリン君。」

再び声をかけられても無視しようと決めたが、私の脚は協力してくれなかった。

「どうしますか?」
「なにが?」



「もし、君が走る先にゴールがなかったら。ゴールはおろか何もなかったら。」



団長はさっきよりも口角は下がり、だけど微笑み顔で言った。いつも見ているニコニコニヤニヤのような雰囲気が一切なかった。団長は真剣なのだと、回ってない頭でも分かった。

「そうだった場合、それを知る術はないのですから君は永遠と道を走ることになる。それだけの覚悟が君にはありますか?」
「覚悟?」
「はい。覚悟です。」
「それは………」

言葉が詰まる。永遠と走り続ける覚悟?団長はここでやめろと言いたいのだろうか。もう私は走らない方がいいのだろうか。

「覚悟がないと走っちゃいけないの?」
「はい。覚悟なしで走ったらいつか本当の目標を忘れてしまいます。それで脚を止めて帰ろうと後ろを振り返っても戻ることはできません。それがこの道です。」

どう答えるべきかわからない。私にゴールがなくても走る覚悟はあるのだろうか。自分のことなのにわからない。

「分からないではこの先へ行かせませんよ。」

私の心の声が聞こえているか、そう言ってきた。
走る覚悟……何を持っていれば覚悟になるのだろう。ここを走るのに何か想いがあっただろうか。酸欠の脳では何も思い出せない。


『走らないと』


あった、一つだけ。

「一つだけ言えるのは」

そう言って下を向いていた顔を上げた。
綺麗な碧眼と目があう。


「私はゴールに向かって走りたいです。」
これしか今の私には分からない。


「それでは行かせられません。」


団長はそう言うと目の前から姿を消した。
私の視界は再び真っ暗になった。



どこからか声がする。

「夏休みがあと6日!?もう終わるじゃん!!!」
「ハヤト、あまり騒ぐな。リンが寝ているだろう。」
「いいよもう起きちゃったから。」
馬鹿でかい声の正体はハヤトだった。目覚めには少しきついが夢が夢だったのでちょうどいい。
「やばっ、ごめんリン!!」
「すまないリン。俺が早くこいつの口にガムテープでもしておくべきだった。」
「いや大丈夫だよ。別に気にしてないから。」
「おいセイカ冗談でもガムテープを持つなよ!」
「?? 俺は真面目に言ってるんだか。」
「ちょっ!!ほんとに大丈夫だって!!」
「そうか?リンがそこまで言うならやめておこう。」

夢だった。夢オチか。まぁ起きてみればおかしいことだらけだったな。暗闇走るって何事って感じ。しかもそこに団長が出てきて永遠がー覚悟がーとかよくわかんないこと言ってきて怖かったし。なんか夢特有の奇妙さだったな。

「話戻すけど夏休みあと6日だってよ。リン。」
「あ、うちの学校9月からだから。」
「は?なんで??ずるくないですか?」
「夏休み入るのはそっちが早かったでしょ。日数的にはそんなに変わんないから安心しな。」
「いやそういう問題じゃないじゃん。なんか、周りが学校行ってる中で悠々と休めるっていう背徳感がずるいんじゃん。」
「そこかい。」
「お前の言ってることはよく分からんな。」
「あーあ、ずっと夏休みが続けばいいのに。」
「終わらない夏ということか。それはそれでお前のようは人間はやることがなくて暇だー休みなどもういらなーい。と一番最初に言いそうだが。」
「そんなことっっっ………あるかも。」
「ハヤトっていう生き物はわかりやすいよね。」
「あぁ、同感だ。」


終わらない夏…か。さっきの夢のせいで変に意識してしまう。


「永遠の夏ですか。それより私は四季折々を楽しみたいですね。」
「……!!?」
「うわ団長きた。」
「こんにちは。団長。」
「あれ?皆さんもしかして私の突然の登場に慣れてきたのですか?」
「まぁ団長って任務会議に来ないだけで暇してる人間だもんね。いつ来てもおかしくないよなって感じ。」
「驚くと団長の思う壺だと知っている。」
「なるほど、そうですかそうですか。慣れたというより私に構うのが面倒になったのですね。」
「まぁそうだなっ。」
「そうだ。」
「………」
「リン君だけさっきから黙っていますがもしかしてまだ私の登場に驚いてくれているのですか?」
「いや、別に。」
「…そうですか。」


『永遠の夏ですか。』
落ち着け。あれは夢の中の団長だ。目の前の団長は本物で私の夢なんて知らない。永遠なんて言ったのはたまたまだ。そうだ、そもそもあんな夢を見たのは寝てる時にハヤト達の話を耳で聞いてそれを脳が夢にしたみたいな感じに決まってる。うん、そうだきっと。

「永遠の夏って…。なんか字面カッケェな!!」
「お前が言うとバカ丸出しになるぞ。」
「は?感想言って何が悪いんだ。」
「その感想がバカ丸出しだと…」
「まぁ落ち着いてください君たち。それにほら、



永遠なんて存在しませんよ。ね?リン君?」



「…えっ?」



8/17/2025, 4:31:04 PM