朝目を覚まして、野菜ジュースを1杯。顔を洗って髪を整え、制服に袖を通す。目玉焼きを乗せたトーストに、塩胡椒を振ってかぶりつく。
手早く朝食を済ませて、昨夜の内に支度を済ませておいたスクールバッグを手に取り、玄関に向かう。
いつもの靴に足を入れ、小さく行ってきますと呟く。
扉を開けると春の風が髪を揺らし、朝日が僕を照らす。
「お、おはよう」
下手な作り笑顔の君は、それでもいつも通り、そこにいた。
「おはよう」
返す僕の声は上擦っていなかっただろうか。笑顔は不自然ではないだろうか。
自転車に乗った学生が僕たちを軽やかに追い抜いていく。学生たちの喧騒は遠くに聞こえる。
僕達は、ゆっくりと歩みを進める。
「良い、天気だね」
「そうだね」
「「……」」
油が足りない機械みたいに、僕たちの会話はぎこちない。昨日までと何も変わっていないようで、全く違う。
決定的な違いが、昨日、生まれてしまったのだ。それでも、それでも僕には普段通り振る舞う義務がある。昨日の出来事なんて、些細なことだったのだと、何も変わらないのだと、何気ないフリをしなければならないのだ。
僕は、昨日、君の恋心を、無下にしたのだから。
君から友人まで奪う訳にはいかないのだ。
3/30/2023, 2:57:40 PM