我慢(テーマ 欲望)
1
欲とはなにか。
生きていくためには必要なものなのか。それとも人を悪の道に誘う悪いものなのか。
中学生の頃、告白した相手の女子生徒の顔は、一生忘れないだろう。
信じたくない、認めたくない物を見る目。
当然のように断られる。
しかし、それだけでは済まず、ショックを受けた女子生徒は泣き出してしまった。
それは問題になってしまったらしく、女子生徒の家へ、両親は頭を下げに行ったらしい。
なお、本人には来てほしくなかったらしい。
「人が嫌がることはしてはいけない。」
戻ってきた両親から、私は滾々と諭された。
わかっていましたとも。
あの子の表情を見た時に、十分にわかりましたとも。
しかし、一方で思うところもあった。
人を好きになり、一緒になりたいと考えることは、欲なのか。
ならば両親はどうやって一緒になり、私を生んだのだ。
人を好きになることは自分で始めることではない。心が動いてしまうのだ。それは確かに欲と言えるかもしれない。
生き物を殺したくなくても、お腹はすくのだ。食欲は命を奪っている。
人と一緒になりたいという気持ちも、犠牲を生むということでは欲なのだろう。
しかも、人から嫌われることで、その欲は満たされることは無くなる。
2
高校の時、日曜日に遊びに行きたいと思ってしまう。
しかし、自分が遊びに行くと、家で年の離れた小さな弟が一人になってしまう。
我慢しなければ。
人の輪に入りたいと思ってしまう。
しかし、嫌われて、輪に入れない以上、その欲は叶わない。
一人で生きていけるように強い心を持たなければ。
他人に対して欲を持つことはよくないことだ。
自分が欲望を叶えると、それがそのまま相手の不幸になる。
相手を嫌な気分にさせてしまう。
なるべく自分の努力で手に入る欲だけを持つようにしよう。
他人の気分次第で叶えられないことに欲を持つと、辛い気分になるだけだ。
3
そして、そのまま年を取り、仕事はできるようになったけれど。
誰かと一緒になることはない。
だって、あんなに嫌な顔をされて、仲間の輪にも入れてもらえない私。
そんな私と一緒になるなんて、気の毒が過ぎる。
たまの休日は、部屋でゆっくりしていけば、誰にも迷惑をかけることもない。
気楽な過ごし方だ。
誰かに好かれ、誰かと一緒になれるなんて、とっくの昔に諦めている。
4
さらに年を取り、30代も半ばを過ぎると、『誰かと一緒にいたい』という欲も減ってくる。
ようやくこの「欲」から開放される。
実に清々しい気分で日々を過ごすようになった私を見て、なぜか年老いた父と母は悲しそうな顔をした。
なぜ、泣くのですか。
ああ、孫の顔を見たい、という、あなた方の欲が叶わないからですね。
申し訳ありません。
その欲を叶えようとすると、私の子を産むために一人の女性が犠牲になります。
そんな残酷なことは私にはできません。
叶わない欲は、持たないほうがよいですよ。
ええ。
結婚や子育ては、人から好かれる、一緒になって喜ばれる人だけが叶えられる欲望なのです。
嫌われる人には過ぎた欲望というものです。
ねえ、そうでしょう。
3/2/2024, 11:27:51 AM