なまえのない物語

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弟が小学校に入る年になった。
彼は明日から授業があるのだと、まだその手には大きく感じる教科書を持ち、にこやかに言う。
何がそんなに楽しいんだか……と思いつつ支度する様子を見守る。
ふと、彼の前にあるランドセルが気になり、手を伸ばして触れてみた。何か、違う。
私のものはもっと柔らかくしなやかだった。しかし、弟のものは硬く、しっかりとしている。
慣れぬ手触りに心が浮つくのを感じた。
弟も同じような気分なのだろう。
けれど同時に、彼には分からないであろうじんわりと広がる温かさも感じたのだった。

《過ぎ去った日々》

3/9/2026, 10:20:03 AM