ミミッキュ

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"手を繋いで"

「ふあぁ〜っ」
「みゃう〜」
 俺の欠伸を真似して鳴く。
 ワクチン接種が終わり、外に出せるようになったので早速早朝の散歩に猫用のハーネスを付けて連れ出した。
 ハーネスは前に玩具を買いに来た時に見つけて、里親にこいつを渡す時安全に渡せるかもと思って買った物だ。
──想像してた使い方と全然違うけど、よかった。
 たるんだリードの先に繋がれた子猫を見る。
 外の色々なものに興味津々みたいで、視線がずっとキョロキョロと忙しない。
 足取りも、心做しか弾んでいるように見える。
「楽しいか?」
「みゃうん」
 そう答えながらもまだキョロキョロとしている。すると歩みが止まり、道端に咲く花に鼻を近付けて匂いを嗅ぎ始める。
 当分外への興味が尽きそうにない。
「はぁ……」
 これからの気苦労を想像し、ため息を漏らす。
 だが同時に、微笑ましさも込み上げてきて口角が上がる。
「ほれ、そろそろ帰るぞ」
 まだ花の匂いを嗅いでいる子猫に声をかける。
「みゃんっ」
 こちらを見あげたかと思うと、素早い動きで俺に駆け寄って足に飛びついてきた。
「うおっ、何だよ」
「みゃ」
 驚いて一瞬動けずにいると、俺のズボンに爪を引っ掛けながら登ってきた。
「んだよ抱っこか?」
 ズボンを登ってくる子猫を両手で捕まえて胸に抱き寄せると、手の中でゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
──こいつ本当に抱っこが好きだな。
 ふと前足を手に取り、優しく押す。間から鋭い鉤爪が出てきた。
──後で爪研ぎ買ってこなきゃな。猫用の爪切りも買って、やり方は今度検診に行った時に聞こう。
 身を翻して、ゆっくりと歩みを進める。
──……あ。俺が飼い主になったから、名前早く決めねぇと……。名前、どうすっか……。どんなのがいいんだ……?
 とてつもなく重大な問題に、思わず人目を気にせず歩きながら「う〜……」と唸いた。

12/9/2023, 1:02:07 PM