なぁ、俺の話を聞いてくれよ。
俺には、仲のいい友人がいたんだ。けどソイツ、自転車通学でさ。
徒歩で行き帰りしないもんだから、一緒に帰ろうと誘いたくても誘えなかったんだ。
誘ったところで断られてたし。
ソイツ…結構苦労しててさ。結構って言うか普通に。
親からネグレクトされて、転校生だからって虐められてて、病名は知らないけど、余命宣告されたって聞いた。
その全部を、穏やかな笑顔でそう言った。
俺はソイツのことが大好きだったから、いじめられてるとか関係なく、ソイツの味方でありたかった。
でも、そう言うと、ソイツは俺が傷つくことを望まないからやめてくれと笑顔で止めた。
それからずっと何も言えなかった。ちょっとホッとしてた。
暫く時が経ち、何事も無かったかのようにソイツは死んだ。誰一人として変わりなく過ごしていた。
悲しかった。涙が止まらなかった。
ソイツを苦しめたこの学校の屋上から飛び降りて、この学校の評判を貶めてやろうかと思った。
けれど、ソイツはそんなことを願っていないと思う。他人が不幸になることを願うような奴じゃない。
何事も無かったかのように去っていった癖に、去っていく音すら聞かせずに去っていったソイツの笑顔。
俺、もっと何かできたのかな。あんな隣に居たのに何も知らなかった。
嫌がられても嫌われても、なにかできたかもしれない。
いじめられることを怖がって、何もできなかったのかもしれない。
…話、聞いてくれてありがとうな。あれ、なんかお前、ソイツに似てるな。気の所為か?
俺みたいになるなよ。もしくは、ソイツみたいにならないことを祈ってるよ。
じゃあな。
「遠い足音」
10/3/2025, 12:35:12 AM