「はじめまして」
女の子が泣いていた。暗い部屋の隅で、顔を隠して。高身長が故に中学生にも見えるけれど、彼女はきっと小学校高学年くらいの年齢で、スカートではなくズボンを履いて、髪を無造作に後ろで一つに束ねて。必死で涙を拭うその子はまるで、泣くことを拒んでいるようだった。泣き虫な自分なんか嫌いで、だけど涙は勝手に流れてきて、そんな弱い自分を誰にも見せたくなくて、少女は一人で泣いていた。
彼女の顔は流れる涙を拭い続ける手で遮られて見えないけれど、私は直感的に理解した。あれは、私だ。小学生の頃、何をやっても失敗ばかりで、うまくいかなくて、泣いてばかりだった私だ。あの時は辛いことが重なって、まるで世界の終わりみたいに落ち込んでいたっけと、俯き泣き続ける彼女の背中を見ながらボンヤリ思い出す。当然、今の私からしたら些細なことばかりだ。あれからもっとしんどいことも辛いことも経験したし、思い返してもあれは小学生の小さな世界での絶望だったのだと苦笑するレベルだ。
だけど、目の前の小さな少女を見ていると、決して笑うことなどできなかった。だって彼女は必死に戦っている。私が言えたことではないが、彼女は彼女の世界に訪れた絶望と、必死に向き合っているのだ。たとえ今の私にとっては小さなものだとしても、それは乗り越えたからこそ言えるものである。その経験をしたからこそ、私は今こうして、前を向いているのである。
そうだ、私は言いたかったんだ。目の前の少女に。大丈夫だよ、未来はきっと笑えるよ、楽しいよって。幸せだよって、言いたかったんだ。
少女の隣にそっと座り込み、顔を見ないまま言う。きっと私なら、泣き顔を見られたくないだろうから。
「こんにちは、はじめまして。私は−−−−」
4/1/2025, 3:01:40 PM