ずい

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『降り止まない雨』

終わったら二人で遠くに旅に行かないか。
そう言った彼は、ケリをつけてくると一言SNSに残すと元カノのところへ出かけていった。
雨音のひどい梅雨の始まりのことだった。

「上乃木柚音さんのお宅ですか?」

三日後警察がアパートにきた。
同行した署で見たのは、憔悴しきった彼の両親と冷たくなった彼だった。籍は入れてないけども、長く同棲している子がいると彼の父親が伝えてくれたらしい。
間違いないと告げると安置室から出された。

「ごめんなさい、ごめんなさいねえ」
「裕灯と二人で重なって見つかったらしい。あの子が先に刺されて、その後を追うように相手の娘さんが自死したと」

彼女がストーカーみたいになってきたと相談は受けていた。
むしろその日々がなければ、同じバイト先という以外接点はなかっただろう。
亡くなった彼は穏やかな顔をしていた。

彼が出ていった日から耳の奥で雨音が聞こえるようになった。梅雨入りの時期の静かな夜にだけ。
耳鼻科に行っても悪いところはなく、精神的な要因の可能性もあると診断された。

あの日から降り始めた雨はまだ止みそうにない。

5/25/2024, 12:22:54 PM