ノートを開くと架空の植物が1ページに1つ描いてあった。
ご丁寧に細かく設定も書いている。
咥えていたアイスの棒にグッと力が入る。
苦手だった祖父の部屋の小さな押し入れの奥。
そこに架空の植物ノートはあった。
2日前、祖父の葬儀が終わり
あまり寄り付かなかったこの部屋で、母と2人寝泊まりした。
厳格で無口で現実主義。
それが祖父だと思っていた。
「あら、見つかっちゃったのね。」
暑いでしょう、と僕に麦茶差し出して祖母は言った。
まだ暑さが残る昼間。
溢れんばかりの氷を唇で受け止めながら麦茶を一気に流し込んだ。
「…ばあちゃん。これ、誰のノート?」
「そりゃここにあるんだからおじいちゃんのに決まってるでしょうに。」
「でも、内容が。」
「ああ、礼央君からすれば意外かもしれないねえ。」
魔法瓶から麦茶を足しながら、ふふふと祖母は笑う。
「おじいちゃんはねえ、夢追い人だったのよ。」
エッと大きな声が出た。
「そんなふうには見えなかったでしょう。
礼央君たちは多様性を認めるようになった世代だろうし、
テレビでそう言ってるのもよく見ているけどね。
この田舎ではまだ、偏見は根強いのよ。
私たちはここを出たことがないからね、
この村社会で生きるには地味に質素にが鉄則。
そんな町でおじいちゃんは変わり者だったの。」
カランと氷が動く。
「架空植物図鑑、そんな馬鹿馬鹿しい絵を描く奇人。出会った頃、あの人はそう呼ばれてたの。
おばあちゃんはそんな想像力に惹かれたのだけど、
この町はそれを許さなかったのよね。
でも無口で言い返しもしない。
ただ自分の好きなものを貫いてた。」
「じゃあいつから…」
「礼央君のお母さんがおばあちゃんのお腹にいる頃。
娘が自分のせいであれこれ言われるのは我慢ならないからって。
そのノート、本当はもっとあったのよ。
でも妊娠がわかった年の分以外すべて捨てちゃったのよ。
良くも悪くも頑固でね。」
最初のページに“決意の石の木“という石のなる木が描かれていたのを思い出した。
“その木を育てている人間の決意の数だけ石がなる。
石の硬度は決意の度合いによって変化する。
私の決意の石はきっと中の種をみせることはないだろう。”
祖父の性格がしっかり反映されている。
僕がもう一度ノートを読み返しはじめると祖母はそっとその場を離れた。
どのページも隅に日付と星が振ってある。
日付は飛び飛びで、母の誕生日、結婚10周年、母の成人式…と大切な節目に描いていたことが僕でもわかった。
星は基準こそわからないが、評価点数らしい。
MAX5個で評価されているようだ。お気に入りレベルだろうか。
そしてそれは僕の誕生日にもあった。
“スターサイン・レオ“
聞いたことがある。
獅子座から僕の名前を考えたということを。
3月生まれなのに、と疑問に思っていたがその答えはここにあった。
“冬の終わり、春の始まり頃に夜空に現れる獅子座と共に咲く夜の花。
発光する花弁は獅子座を形取り、ほんのり辺りを照らす。
星のように道標となり、獅子のように力強く己の道を行く者が産まれると花としての役目を終え、その者を守るエネルギーへと変わる。”
星はMAX5個ついていた。
【星座】2024/10/06
10/6/2024, 8:27:51 AM