星座
小さな港町に住み着いている子猫。
以前は飼い猫だったが、捨てられて今はひとりぼっち。
漁船から落ちた魚を拾って、なんとか生き延びているが、漁師たちは、魚を狙う猫が大嫌いだ。
見つかると追い回されるので、昼間は倉庫の床下や干した漁網の影にじっと隠れている。
夜になると、子猫はようやく外に出て、港の堤防に登って広々した空を眺める。
しばらく前に、子猫は年寄り猫と友達になった。
年寄り猫は昔、船乗りに飼われていて世界中の海を航海していたので、大変物知りだった。
年寄り猫は、子猫に「星座」というものを教えてくれた。
カシオペアに白鳥座、琴座、双子座…
年寄り猫は、人間の星座は人間が勝手に決めたもので、猫には猫の星座があってもいいのだと言う。星々を好きな形に結んで自分の星座をを作ってごらん、と教えてくれた。
友達になってから間もなく、年寄り猫は死んでしまったが、子猫は毎晩空を眺めて、新しい星座を作り続けている。
大きな魚座、もっと大きな魚座、魚の骨座に魚のしっぽ座…
子猫には一つ不思議なことがあった。
星は一晩の間に夜空を動いていく。また、何日もたつと星座の位置も変わり、見えなくなる星座があれば、新しい星座が見えてくることもある。けれどもいつも同じ位置に現れて決して動かない星座があるのだ。
海を背にして陸地の方を眺めると空の下のほうにいつも同じ星座が現れ、夜が明けるまでずっと同じ場所で輝き続けている。
猫の顔が3つ並んだような不思議な星座。子猫は「猫の家族座」と名づけて、一番のお気に入りにしていた。
冬が始まったある日、猫の家族座の一匹の猫の耳のあたりに変わったことが起きた。いつも白く光っていた星が緑や赤や黄色に変わってチカチカと瞬くようになったのだ。
子猫はその星が気になって仕方がない。星は遠いところにあって、とても手が届かないことは知っていたが、どうしても星の近くに行って何が起きているのか確かめてみたくなった。
子猫は初めて港を離れて、星を目指して歩き始めた。車が行き交う大きな道路を命がけでいくつもわたり、恐ろしい犬に追いかけられたり、冷たい川に落ちてびしょ濡れになったりしながら、子猫はなるべく高い場所を目指した。
が、進むにつれて星座はだんだん形がくずれていく。星だと思って近づいてみると、それは街灯や家の窓から漏れる光だった。子猫が動かない星座だと思ったのは、高台にある遠くの町の明かりだったのだ。すっかり迷ってしまった子猫はもう港町に帰る道もわからない。
途方に暮れて道端にうずくまっていると、近くで泣き声がした。見ると子猫よりも小さい黒猫が、やはり途方に暮れた様子で座りこんでいた。
この猫は高台の町のある家で飼われている猫なのだが、最近、水平線に現れる不思議な星の正体を確かめようと海に向かって歩いているうちに迷子になってしまったのだった。
(この星は本当は、冬になると現れるイカ釣り船の明かりなのだが、どこで説明していいかわからない!)
仲間ができたことで、気を取り直した子猫は、もう一度進むことにした。星は見つからなかったけれど、甘えん坊で頼りない黒猫を励まして、家に送り届けることにしたのだ。
二匹は苦労しながら、なんとか黒猫の家にたどり着いた。
家の前では飼い主の家族が総出で黒猫を探していた。
黒猫が帰ってきて大喜びする一家。
「クロが友達を連れて帰ってきたよ!」
子どもの一人が子猫を見つけて抱き上げる。
どこの子かな? 迷い猫じゃないかな?などと言い合っているうちに、子猫を抱いた子どもが、「この猫もうちで飼おうよ」と言い出す。両親は顔を見合わせるが、二人とも猫好きらしく笑みがこぼれる。二匹飼うのも楽しそうだね、ちゃんと世話するんだよ、と一家はにぎやかに家の中に入っていく。
庭には赤や緑や黄色に輝くクリスマスツリー。
探していた不思議な星はこのクリスマスツリーの光だったのだけれど、暖かい家の中に迎え入れられた子猫はそれを知らない。
10/6/2022, 8:24:03 AM