【桜散る】
ひらりひらり。
本の隙間を、淡い花びらが染める。
風に乗って、窓から入ってきたらしい。
つまみとろうと、思ったが、先に横から手が伸びてきた。
「教室に入ってくるなんて、珍しいね」
拾い上げた花弁を眺めながら、晴香が呟く。
「別に。桜なんていつも散ってるでしょ」
そう言いながら、私はページをめくる手を止めていた。
押し花をする趣味はない。
「草笛ってあるでしょ? これでもできるかな?」
言うが早いか、晴香は口をつけ、
ピー。
花弁を響かせた。
「あ、できた!」
晴香は目を輝かせると、
「小雨ちゃんもやろっ!」
「私はいいよ…」
「もしかして、できないのが怖いの?」
安い挑発だな、と思うものの、こうなると、晴香は聞かない。
諦めた私は、本を閉じた。
「貸して」
私は花弁を受け取ると、唇を当て、吹き込む。
ふー。
……鳴らない。
何度吹いても、花弁が震えることはなかった。
「えへへ。こうだよ〜」
再び花弁を手に取った晴香が花弁を鳴らす。
「小雨ちゃん、不器用〜」
得意気な晴香をよそに、私はため息をつくと、読書に戻ろうと、本に手を伸ばし__
「それにしても、小雨ちゃん、間接キス、しちゃったね」
手が止まり、顔が急に熱を帯びていく。
顔を上げると、満面の笑みな晴香の顔。
油断した。
「い、今のは……違うから!」
必死に取り繕うも、晴香はニヤケ顔を崩さない。
晴香の口にしたものを、躊躇いなく口にしてしまった自分に。
__それを当たり前に受け入れてしまったことが、私は納得できない。
なのに、その違和感さえ、すぐに薄れていく気がした。
4/17/2026, 3:32:16 PM