22時17分

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宝物を守るミミックは、本日もダンジョン内をおさんぽ中である。

薄暗い地下ダンジョン。
攻略難易度は高めな方で、実際、そのミミックは百戦錬磨の無敗であった。
実はラスボスの魔王や裏ボスであるダンジョン最下層に座す主よりも強いのではないか、という噂もある。
実際、箱の中には、ラスボスをハムのようにスライスしてしまうほどの伝説の武器が何本も入っていたりする。
しかし、ミミック的にはそれら伝説の武器たちを丁重に運ぶことなどせず、ガッチャン、ガッチャンと、中身を揺らして歩いている。

いわゆるジャンプしての移動はしていない。
歩いているのだ。
ミミックは宝箱であるので二足歩行ができる足は生えてないが、どこか生えているような気がする。感情もある気がする。
スキップ、スキップ。
身体(箱)の重心を交互に、左右に、傾かせて。
見えない音符と見えないリズムを奏でている。

「……」

ミミックは、ふと耳を澄ますようになった。
身体を固まらせて、閉じた宝箱となっている。
変な場所で静止したが、その辺は問題ない。
意外とツッコまれたことはない。

電源が切れたように、もう動かない。
ちなみに箱の装飾はちょっと豪華である。
以前は普通湧きのボックスのように、錆だからけの金具に薄汚れた木箱を連想させる見た目だったが、いざこれがミミックだと分かると、冒険者が舐めてかかってきてしまう。
犠牲者の屍の山がダンジョンに積もって、掃除が大変だと魔物たちが愚痴を零していた。

だって歯向かってくるんだもん……。

ミミックがシュンとしていると、魔物たちは提案した。グッドアイデア。ミミックは宝物の中からアクセサリーを取り出し、箱の装飾を頑張って飾った。

十字の分岐路の一方から、冒険者一行がやって来た。

「おい、あれ」
「あ、宝箱……」

男が気づき、女が目ざとく視線を揺らす。
赤色のネックレスの反応が良い。

典型的なメンバーで構成されている。まだミミックだとは気づいていない。女が近づいて、箱を開けようとした……。

恒例行事。
口を大きく開けて、伸びた手を噛みちぎろうとした。

「うわっ、ミミック!」
「くそ……」

一行の目がきつくなり、臨戦態勢。
ミミック側は、ちょっと甘噛みして逃がす予定だったのだが、そんなにやる気なら仕方がない。
本日は気分が良いから相手になろう。

箱の蓋をぐっぱりと回し開け、中身をよぉく見せた。
中には山盛りの綺羅びやかなゴールド、歴戦の勇士が所持した豪華な戦利品。それから紫色の……よく知らない空気の塊。
それらをとことん見せてから、戦闘に入る。
そうすると、ゲームのシステム上「逃げられないバトル」に進化する。

とりあえず、男どもをザラキで即死させてから、可愛い女の子を土下座させたい。
1分後にそうなって、3分後には意気投合。
一緒にダンジョン内デートをすることになった。
女の方が少し怯えているようだが、ミミックにはよくわからない。

スキップ、スキップ。
こうやって、地下ダンジョンの魔物たちに見せびらかすことを毎日やっている。気分が良いのはそれである。
ダンジョン外にこの噂は広まることはない。
その辺は抜かりない。
「逃げられないバトル」なのだから、男たちに死に戻りなんてさせない。

11/21/2024, 9:56:30 AM