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the morning glow

 今年の冬は一段と寒い。寒さの本番はまだこれからだというのに、私の吐く息は白い。それに、今日は雨だ。窓に打ちつける雨の音が、1人には広すぎる我が家に響き渡っている。

 私も歳をとった。薄く生える髪の毛は白く染まり、ベッドから起き上がるだけでも腰や膝が痛む。目が覚める時間も随分と早くなってしまった。寒い冬の時期の朝は本当に体にこたえる。

 私はダイニングへ赴き、紅茶を淹れた。冬の突き刺すような寒さの朝は嫌いだが、そんななかで味わう君が淹れた紅茶は格別だった。

 君がいなくなってからどれくらい経ったのだろう。随分と長く君と顔を合わせていないけれど、いまだ日常に君の影を追ってしまう。毎朝自分で紅茶を淹れるとき、君のつくる紅茶を思い出すのだけれど、私が淹れた紅茶の味はどこか渋くて、香りもなぜか物足りない。やっぱり私は君には敵わないみたいだ。

 温まった私の体に、窓を打つ雨の音が心地よく響く。肌を刺す寒さもどこか気持ちが良い。
 ああ、寒い。このまま眠ってしまおうか。君がいたらこんなところで寝るなって叱ってくれたかな。けれど今ここにいるのは私だけ。ああ、瞼が重い。目が覚めた時には雨が止んでいると良いのだけれど。



 ......ん?
 どうやら私はダイニングの椅子で眠ってしまっていたようだ。卓上の時計によれば、ほとんど時間は経っていないようだ。紅茶もまだ湯気を漂わせている。良い香りだ。
 目の前の紅茶を一口すする。温かくて美味しい。
「相変わらず、君の淹れる紅茶は美味しいよ」
「当たり前よ、あなた。」

 窓の外に目をやると、すっかり雨は止み、穏やかな鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。ゆっくりとはけていく雲の隙間からは、美しい大地というステージにスポットライトを当てるかの如く、何本もの光線が降り注いでいるのが見えた。
 天使が吹くラッパの音が聞こえた気がした。

10/27/2023, 11:32:30 AM