最近の悩み。斜め後ろの席の加藤が、めちゃくちゃ俺を凝視してくること。
授業中はもちろん、合間の休憩時間に友達と駄弁っているときも、昼休みに飯を食っているときも。教室にいる間はずっと、後頭部への視線を感じる。
気のせいではない。振り向くと、加藤と必ず目が合うのだ。かと思えば、加藤は即座に視線を逸らす。
加藤とは同じクラスだが、あまり喋ったことはないし、誰かと親しく喋っている場面も見たことがない。無口だし、表情も乏しいので、何を考えているのかよくわからない。クラス内では浮いていて、いつも一人でぽつんと席に座っている。
そんな加藤が、なぜ俺をじっと見つめてくるのか。シャワーを浴びながら考えた末に、俺は一つの可能性に思い至った。──加藤、俺のこと好き説。
だって、あんなにも熱烈な視線を向けてくるのだ。なぜかって、そんなの「俺のことが好きだから」以外の理由があるか。
けれども、俺には既に好きな人がいる。2組の宮村さんだ。心苦しいが、加藤の気持ちに応えてやることはできない。俺は鏡にうつる自分を睨んだ。俺ってば罪な男だ。あまりにもイケメンなばかりに……。
とにかく、明日加藤にハッキリ言おう。俺が好きなのは宮村さんなのだと。シャンプーを泡立てながら、俺は固く決意したのだった。
翌日、体育館の裏にて。
「というわけで、加藤の気持ちには応えられない」
ごめん、と言って、俺は頭を下げた。
加藤は何も言わずに黙っていたが、やがて「なんの話?」と言った。顔を上げると、目の前に立った加藤は不思議そうに首を傾げている。
「俺の気持ちって?」
「え、だからその、加藤は俺のこと好きなんだろ?」
俺が言うと、加藤はますます怪訝な顔をした。しだいに俺の胸の内に不安がよぎり始める。あれ、これってもしかして。
「加藤ってさ、なんかいつも俺のことすげー見てくるじゃん。だからもしかして俺のこと好きなんかなーとか、思ったん……だけど」
俺の言葉を聞いた加藤は、ばつが悪そうに頭を掻いた。これはもしかしなくても、俺の勘違い。頬がじわじわ熱くなり始める。
「……俺としてはそんなつもりなかった。勘違いさせちゃってごめん」
加藤は言った。勘違いだとハッキリ告げられて、俺は撃沈した。なぜか俺のほうが振られた感じになっている。生き恥晒し真っ只中の俺は、消え入るような声で「そっか」と言った。
「でも、じゃあなんで俺のこと見てたの……?」
まさか、これも勘違いなのか。もしも加藤が見てたのが俺ではなく、俺の後頭部にとまったハエかなんかだったとしたら。などと考える俺をよそに、加藤は「ああ、それは」と言った。
「実験してたんだ」
「……実験?」
「『穴があくほど見る』って言うだろ? ずっと見つめ続けたら、本当に穴があくのかなと思って」
「…………」
加藤はヤバい奴だった。そして俺は知らない間に、実験台にされていたようだ。
【テーマ:見つめられると】
3/29/2026, 1:13:39 AM