目を閉じていても入ってくる日の光に、私は目を覚ました。んー、今日もいい天気!そのおかげか、昨日の失敗なんてすっかり思い出せなくて、良い1日の始まりだ。私は寝袋をたたみ、いつも通り早起きな師匠を探す。
いつもは近くで朝ごはん作ってくれているのに、今日はなかなか見つからなかった。海岸に出て、ようやく師匠を見つけた。
「おはよう師匠!何してるの?ご飯は?」
私は師匠に駆け寄る。師匠は私の呼びかけに反応せず、海のその先までぼんやりと眺めているようだった。何か様子が変だ。師匠は生き物の気配に敏感なはずなのに。
「師匠?」
私は彼女の顔をのぞき込む。
「…ごめん、ちゃんと聞こえてるよ。」
彼女は私の頭をなでた。今にも泣きそうな顔で、穏やかに笑っている。
「何、してるの?」
「…なんでもないよ。先、ご飯の準備しててくれる?」
「…一緒にする。」
こんな今にも崩れそうな顔をした人を、1人にしておけない。相手が逆らえない師匠であっても。
「…そっか。」
彼女の顔が困り顔になったのがわかった。それでも、私の考えは揺らがない。
ふと、彼女が左手に持っているものに気づいた。
「それ何?お酒?朝から飲むの?」
師匠がお酒飲むのは見たことない。子どもの私に遠慮してただけで、本当は好きなのかな。
「違うよ。」
彼女はしゃがんで私と目の高さを合わせた。
「これは、メッセージボトルって言ってね。中身は手紙だよ。海に流して、その先の誰かに届けるんだ。」
「その先の誰かって?」
「ちょうど流そうと思ってたんだ。ココル、流してみる?」
私の質問には答えずに、彼女は手紙の入ったボトルを差し出した。
「これ、ちゃんと届くの?」
「そう思う?」
彼女はまゆを下げて情けない顔で言った。その瞬間、私はわかってしまった。誰に宛てたものかはわからないけど、それを言いたくないということ、そして届かないだろうこと、さらにそれをわかっているからこそ、流す勇気がないのだろうこと。
「わかった、私が流してみる。」
私はボトルを丁寧に受け取った。
「ありがとう。」
彼女は安心したように顔を緩めた。
彼女にとってこのメッセージボトルはどういう意味があるのか、わからない。でも、あんな顔をするのだから、きっと深い意味があるのだと思う。
「放すよ…。」
「うん。」
彼女返事を聞いてから、私はボトルを放した。波に飲まれ、すぐに見えなくなった。
誰がこのメッセージを待っているのか、わからないけど。お願い、ちゃんと届いて…..
7/10/2025, 9:23:36 AM