『生涯愛した人』
私は失恋した。
好きな人がいた。
とても素敵で誰にでも優しい人だった。
もう5年くらい片想いしていたと思う。
ただ見ているだけで幸せだった。
話しかけなかったのには理由もあった。
私が臆病だった。
そして何より彼には他に好きな人がいた。
分かりやすいくらいその人のことが大好きで、
私は彼の幸せを願っていた。
どうかその人が振り向いてくれますように。
けれど、彼は失恋した。
彼の好きな人にも好きな人が居たのだった。
あれから少し泣いていたのを知っている。
声をかけることさえ出来ない臆病な自分を悔やんだ。
彼が失恋したのと同時に、私はこのままの私で良いのか悩んだ。陰から見ているだけで良いのか?
それからの私はちゃんと努力をした。
せめて彼が失恋したときに、話を聞ける友達でいられたら。側にいられたら。
そう思って、私は意を決して話しかけに行ったんだ。
「あ、あの!!」
「…あ。君は」
「わ、私と友達になってくれませんか」
「え、あ、うん。」
晴れて友達になれた。連絡先も交換できた。
たぶん、誰よりも彼の側に居ることが多くなった。
そしてまた、自分のなかで葛藤が生まれた。
私が側に居ることで結果的に彼の恋路を邪魔してしまうことになったらどうしよう。
でも私のことを好きになって欲しい。
やっと仲良くなれたのに告白をしてこの関係が壊れるのは嫌だ。
そうして選んだのはこのままの関係だった。
誰よりも近くにいる友人。
ずっと良い友達で居られていたと思う。
少し時が経って卒業が近づいてきた頃、彼の態度が少しおかしいことに気が付いた。
私が話しかけに行けば
「用事があるからごめん」
と避けられるようになった。なにか嫌われるようなことをしてしまったのかと凄く凄く落ち込んだ。
かと思えば、
「今度二人で遊びに行こう」
ととても嬉しいことを言ってくれるようになった。
嫌われているわけではないことが分かればそれでいい。私は可愛い格好をして、彼との待ち合わせ場所に向かった。
既にそこにいた彼はとてもかっこ良くて素敵で改めて心を打たれた。
「ごめん、お待たせ!」
「待ってないよ」
まるで恋人のようなやり取りに私は勝手に嬉しくなる。
映画に行って感動して。
ショッピングを楽しんで。
最後には綺麗なイルミネーションを見た。
とても幸せな時間だった。人生のなかで一番。
「今日は楽しかったね」
イルミネーションを見ながら浮かれた気分で言う私に、彼は笑って
「うん、とても楽しかった」
と言う。こんなに幸せな日は今後一生ないだろうと思うくらい幸せだった。
「ねえ」
「なに?」
彼はふと、歩みを止めて私の方を向いた。
まさか告白?!とか思いながら答える。
「僕、…君と仲良くなってから毎日が凄く楽しいんだ。あの日、恋が叶わなくて良かったとさえ思う。
君のことが好き。付き合って欲しい。」
本当に告白だった。驚きすぎて声がでなかった。
代わりに涙が溢れた。
「………っ、わ、私、
私で良いの…?」
「うん、君が良い。」
「私も、貴方のことが好きです。お願いします」
ぼろぼろ泣く私を彼は優しく抱き締めてくれた。
本当に人生で一番幸せな日だった。
それからは無事に高校を卒業して、それぞれ別の県にある大学に進んだ。関係は良好で、2ヶ月に1度は必ずお互いの県に遊びに行く。
大学2年生になってから初めて会う日、
私は彼にプロポーズされた。
あまりに突然で驚いて、付き合ったときのようにまたたくさん泣いた。
彼はあのときのようにまた優しく抱き締めてくれた。
結婚式は大学卒業してからあげることにした。
両家の挨拶も済ませたし、卒業後に一緒に住む場所をどの辺にするかも相談した。
そんな幸せ真っ只中の出来事だった。
彼が死んだ。
そんな連絡が来たのはあと少しで卒業を控えていた頃だった。
即死だった。
居眠り運転のトラックにはねられたのだ。
運命を恨んだ。
なぜ他の誰でもなく彼なのか。
一晩中泣いた。
彼のお葬式で現実を突きつけられてまたたくさん泣いた。棺の中の彼は綺麗で、眠っているだけのように思えた。
それから大学を無事卒業し、彼と挙げるはずだった結婚式をあげた。
骨になってしまった彼と。
私は失恋した。
生涯愛する人を失った。
ただ、彼は私の心のなかに生きている。
これから先も、彼以外の人を好きになることはないだろう。
お題:《失恋》
6/3/2023, 6:20:48 PM